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「…今日は色々あって疲れただろ?」
「う、うん。」
「早く身体を休めて寝ろ。」
野獣は仁湖の身体を後ろから抱きしめたままそう言った。
「…ね、寝るからさ、…少し離してくれる?」
「嫌だ。」
仁湖の心境としては、眠たいけれど眠れない。
人と一緒に寝たことなんて、小さい頃に何度かしかない。それなのに、温もりに包まれて寝ることなど、緊張して出来そうにもないのだ。
野獣に後ろから抱きつかれたままの今の体勢が、妙に仁湖の胸を高鳴らせていた。
ドクンドクンと鳴る心臓の煩い音が、野獣に聞こえてしまうのではないかと、仁湖は冷や冷やとしながら、ギュッと目を瞑って丸くなる。
「…お願い、は、…離して…っ」
「…俺に触られるの、そんなに嫌か?」
「違うけど……、」
仁湖は緊張しているのが野獣に気付かれたくないのだ。
普通は男同士で寝ることは、緊張しないのかもしれない。だけど人と一緒に寝ることに慣れていないからなのか、…それとも一緒に寝る相手が野獣だからなのか…、理由は分からないが、心臓が破けそうなほどドクンドクンと鳴り響く。
「…すげぇ、心臓の音。」
「や…っ、聞かないでよ…。」
どうやら野獣にはとっくに気付かれていたようだ。
それはそうだろう。二人の距離は一cmも離れていない。こんなに密着しているというのに、野獣に気付かれないわけがない。
「…緊張、してるのか?」
「し、してない!…してないから、」
「俺と一緒に寝るの緊張するか?」
「違うってば…っ」
そして野獣は野獣で、緊張していることが気付かれて恥ずかしいのか、必死に嘘を吐いて隠そうとしている仁湖を、言葉でからかい、そして苛める。
後ろを向いているため見れないが、きっと仁湖の顔は真っ赤に染まっているのだろうと、想像して野獣は仁湖に見えないところで優しく微笑む。
「…そんなに可愛い反応されると、俺にまで緊張が移ってきそうだ。」
この野獣の言葉は決して嘘ではない。
…その証拠に、野獣の心臓も仁湖の早い鼓動に合わせて、ドクンドクンとけたたましく鳴り響く。
初心で純粋で…、
鈍感で天然で…、
…その癖、人の感情を察するのが上手で、心優しい。
野獣はまるで甘酸っぱい青春時代のような恋愛感情を、仁湖に抱いてしまっている。
「…俺と、一緒のように…、緊張してるのか?」
「あぁ。…どうやらそうみてぇだ。」
「な、何で?」
「さぁ、何でだろうな。…一緒に寝る相手が仁湖だからかもしれない。」
「…な、何それ…っ」
「そのままの意味だ。」
「ば、…ばか…」
仁湖は野獣にそう言うと、それっきり何も喋らなくなった。
どうやら嬉しくて、それでいて恥ずかしかったものだから、黙り込んでしまったようだ。
…二人の初めての夜は、
お互いに甘酸っぱい感情を抱いて、更けていった…。
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