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「…そ、それって…っ、」
“プロポーズ”?
まるで男の人が女の人に結婚を申し込むときのプロポーズのような野獣の言葉に、仁湖は一気に頬を真っ赤に染めた。
男からの養いの言葉なのに不思議と嫌な感じはしない。…それどころか、野獣にそう言ってもらえて何処か嬉しいと感じている仁湖。
「…あ、…あの、その…」
仁湖は野獣の言葉にどう答えていいのか分からないのだ。自分は親の身代わりとしてここに連れてこられた身。…それなのに悠々と自分だけ豪華な生活をして楽をしてもいいのだろうか?
最初は野獣のことが凄く恐いと思った。だが今の仁湖の思いは違う。本当は心優しいことを知っている。
一生傍に居られるのは嬉しいことだが、自分とは全く住む世界が違う人…。
「あの、…お気持ちは嬉しいですが、…その、俺は…、」
「…敬語。」
「……へ?」
野獣の言葉に仁湖はおもわず素っ頓狂な声を出した。
「…敬語は止めろ。」
「いや、…それは無理…、」
「止めないと、犯す。」
「……お、…おか…?」
“それは無理です”ときっぱりと断ろうとする前に、野獣から言葉を遮られてしまった仁湖。
しかも敬語を止めないと“犯す”と宣言する野獣。
……しかし仁湖は“犯す”という単語を知らなかった。
聞いたことのない単語に小首を傾げて、頭を悩ませる。
「…知らねぇのか?」
「…は、はい。すみません…。」
「謝るな。…それに、…俺はそっちの方が都合がいい。」
「…都合…?」
「何も知らねぇ奴に、最初から自分好みに躾けられると思ったら、すげぇ嬉しい。」
…ニヤリと悪どく笑う野獣に仁湖は、防衛本能なのか分からないが、身体がブルリと震えたのが分かった。
「…あ、…あの…、」
「……で、どうする?」
「な、何がですか…っ?」
「それでも敬語使わねぇか…?」
「え、…っと…」
野獣の言葉に仁湖はチラリと上目で一瞬だけ野獣を見ると、すぐに俯いた。…仁湖は悩んでいるのだ。
自分とは全く違う高貴な方に敬語も使わず接してもいいのかどうか…。
でも、「敬語はやっぱり無理です。」と断ると、何だか自分の身が危なくなると本能がサイレンを身体中に流して訴えている。
「…えっと…、本当にいいんですか?」
「ん?」
「俺なんかが、…その、敬語を使わないなんて、」
「…馬鹿。いいに決まってるだろ。」
何処までも純粋で奥ゆかしい仁湖が、本当に可愛くて堪らなくて、野獣は仁湖の頭を優しく撫でる。
「…これからずっと一緒なんだ。遠慮するな。」
「は、はい、……じゃなくて、…うん!」
頭を撫でられるという行為になれていないのか、仁湖は恥ずかしそうに頬を赤く染めて、元気よく「うん!」と返事をする。
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