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●東堂side
「水泳の補習なんて撤廃しろ。」、俺の一言さえあれば簡単にその通りになるのだろう。…何故ならば、俺の父親はこの学校の学園長なのだから。
だからこそ幾度となく暴力沙汰を起こそうが、退学にも停学にも俺はなったことがない。
数人の生徒と教師はこの事を知っているらしい。だからこそ屑のような教師達は俺の存在を恐れ怯えている。
だが、俺は親の力などに頼りたくはない。だからこそ面倒でしかない補習にも出ている。
……しかし今回は、その“親の力”というものを少しだけ頼りたくなってしまった。
「…東堂先輩…?」
「………」
俺の目の前に居る背の低い男の名前は、柊ももというらしい。今回の水泳補習を受けるもう一人の男だ。
…驚くことに柊には胸に膨らみがある。
男だというのに…。
柊は胸に膨らみがあるということに嫌悪を抱いているようだが、俺はそうは思わない。…むしろ可愛いと思ってしまっている自分が居る。
だからこそこの柊の身体を他の奴に見せるのは嫌だ。
それは補習担当の教師にもいえること。
…どうにかして手を打たねぇといけねぇな。
「…あ、の…」
「…何だ?」
「先生何処かに行っちゃいましたけど、今日の補習ってどうなるんでしょうか…?」
最善策を考えていると柊に話し掛けられた。
こうして人から話し掛けられたのは、本当に久しぶりのことだ。“俺自身”を見てくれるということが嬉しく思える。
「…あの、その…、少しだけ泳ぎますか…?」
「……あぁ、そうだな。」
柊はコクンと一度だけ頷くと、俺に背を向け閉め直していたシャツのボタンを一つ一つ外していく。
生娘のような初々しい仕草が可愛くて堪らない。
俺は柊が後ろを向いていることをいいことに、そのまま生着替えを見続けた。…だが下は最初から着込んでいたので少し残念に思える。
そのまま柊の着替えを始終見ていたら、着替え終わった柊がこちらを恐る恐る振り返った。
「………っ、」
未だ着替えていない俺と目が合うと、白い頬を一瞬にして赤く染める柊。
「あ、あんまり…、見ないでください…っ」
そして恥ずかしそうに、胸の前で腕をクロスにして隠す柊。
…その姿に思わずドキッとしてしまった。
この可愛い生物は本当に男なのか…?
仕草や行動が一々可愛らしい。
これが媚を売る女のように計算高い行動ではなく、天然でやっているものだから性質が悪い。
「やっぱり可愛いな、お前は…」
「な、…な、何を…っ?!」
本心を口に出せば、柊は更に頬を真っ赤に染める。
…水泳の補習に出て良かった。
そうでないと俺は柊と一生出会えなかったと思うから。
顔を真っ赤にして、胸を隠すように蹲る柊の姿に満足しながら、俺も柊同様に水着に着替えたのだった。
END
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