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●東堂side
「補習の監督は一時間置きに来い」、そう先程の教師には言っておこう。出来ることならこの時間を誰にも邪魔されたくはねぇが、…粋がっても俺はまだ未成年。危険もあるかもしれないから、一応数回だけ来てもらうことにしようと思う。
…柊、悪いな。
本当は権力を使えば水泳の補習なんて無くすことなど簡単なことだが、…俺はどうやら本気でお前を気に入ってしまったようだ。だから二人きりで居られるこの貴重な時間を無くしたくない。
この思いが「弟を可愛がる」ような純粋な思いなのではなく、俺はお前を「恋愛感情」で見てしまっているのだから。
「……柊」
「……ぅー、」
「早く来い…」
そして俺の初恋の相手は、今現在更衣室で蹲ったまま動こうとはしない。…一度自分から胸を見せてきたくせに、恥ずかしくて立ち上がれないようだ。
「ほ、本当に、…気持ち悪くないですか…?」
ああ、…羞恥心だけではなくやはり不安もまだあるのか。俺がその胸を気持ち悪いなど思うわけないのに…。
「……柊、」
「…せ、んぱい…?」
「言っただろ?…お前は可愛いよ。」
「…………っ、」
「ほら、来い。」
安心させるために本心からそう言えば、柊はまるで金魚のように口をパクパクと開閉させた。おまけに先程以上に赤くなった頬が余計に可愛いさを引き立てている。
「……ぅ、あ…?!」
俺は動こうとしない柊の柔らかい腕を掴んで、無理矢理プールサイドまで連れて来た。そして陽の下で、自分と同じように布一枚だけになった柊の身体をまじまじと見つめる。
…白い肌。
太ってはいないが肉付きが良さそうで、触ったら柔らかそうな肌。薄い体毛。
……そして、
男にはあるはずのない胸の膨らみ。
「…やっぱり、お前は可愛いな。」
柊の柔らかい髪の毛を掻き混ぜるように頭を撫でてそう言えば、林檎のように赤く頬を染め、涙交じりになりながら柊に「…か、可愛くなんてないです…っ」と怒られてしまった。
…どうやら本心を言えば、怒られてしまうらしい。
気持ちを伝えるのは難しい…。
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