短編集 | ナノ

 もう貴方しか見えないの



<内容>
独占欲。狂愛(?)








不良で端正な顔立ちの滝本龍。
…そして何処にでも居るような平凡な、俺。

何処をどう見ても、俺達は正反対。
そんな俺達が付き合うなんて、神様も分からなかっただろう。


“名前を教えれば、

好きなだけ可愛がってやる”


この台詞を聞くまで、俺はずっと滝本龍に反発してきた。…でも今考えると、「滝本龍に反発してきた」のではなく、「自分の気持ちに嘘を吐いてきた」のかもしれない。
何かを考える前に、俺は自分の名前を口にしていたのだ。…後悔はしていない。
きっとあの時に戻れたとしても、俺は何度だって自分の名前を教えていただろう。


…だって、今こんなに幸せなんだから。



情事中は獣のように強引で乱暴な滝本。
だけど事が終われば、凄く優しい。

そんな滝本は情事後、決まってこの行動を取る。



「…岬」


まず俺の頭を優しい手付きで撫でながら、俺の名前を呼ぶ。


「お前は俺のだからな。」


そして独占欲を隠そうとはせずに、所有者は俺だと言わんばかりに、幾つもの痕を首筋に付ける。
毎回キスマークを付けるものだから、俺の首元や胸元は赤い印で埋め尽くされている。


「俺の一生を岬に捧げる。」


そして疲れて指一本動くことすら億劫で居る俺の身体を、力強く抱き締め、ギラついた雄の目で俺を見つめて、


「……だから、

…岬も俺を愛せ。」


物分りの悪い子供に教え込むように、この台詞を俺の耳元で囁くのだ。…もう何十回ものこの台詞を聞いただろう。

…だが俺は一度もこの台詞に返事をしていない。


滝本のことは好きだ。
最初は大嫌いだったけど、今では愛してる。


…だから、

好きだからこそ俺は返事しないのだ。



滝本は何度も同じ台詞を吐き、何度も同じ行動を取る。その理由は、きっと俺が返事をしないからだろう。…別に滝本を不安にさせたいわけではない。


…ただ、返事をすればこの台詞を二度と聞けなくなると思うと、返事が出来ないのだ。



「……岬…」

「…ン、」

「分からないなら、もう一度教え込んでやる。」

「…ぁ、…滝本…、」

「…最初からな。」


俺はこの展開に笑みを浮かべる。
また身体で愛してもらえて、あの台詞を聞けるのだから。


…こんな風に考えている俺は、きっと滝本以上に所有欲が強くて、…狂っているのだろう。

でもこれも全部滝本の所為なんだから、滝本がきちんと責任を取るべきなんだ。

いつかきちんと「愛してる」と言ってあげようと思いながら、俺は今この瞬間の幸せを味わった。



END


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