▼ もう貴方しか見えないの
<内容>
独占欲。狂愛(?)
不良で端正な顔立ちの滝本龍。
…そして何処にでも居るような平凡な、俺。
何処をどう見ても、俺達は正反対。
そんな俺達が付き合うなんて、神様も分からなかっただろう。
“名前を教えれば、
好きなだけ可愛がってやる”
この台詞を聞くまで、俺はずっと滝本龍に反発してきた。…でも今考えると、「滝本龍に反発してきた」のではなく、「自分の気持ちに嘘を吐いてきた」のかもしれない。
何かを考える前に、俺は自分の名前を口にしていたのだ。…後悔はしていない。
きっとあの時に戻れたとしても、俺は何度だって自分の名前を教えていただろう。
…だって、今こんなに幸せなんだから。
情事中は獣のように強引で乱暴な滝本。
だけど事が終われば、凄く優しい。
そんな滝本は情事後、決まってこの行動を取る。
「…岬」
まず俺の頭を優しい手付きで撫でながら、俺の名前を呼ぶ。
「お前は俺のだからな。」
そして独占欲を隠そうとはせずに、所有者は俺だと言わんばかりに、幾つもの痕を首筋に付ける。
毎回キスマークを付けるものだから、俺の首元や胸元は赤い印で埋め尽くされている。
「俺の一生を岬に捧げる。」
そして疲れて指一本動くことすら億劫で居る俺の身体を、力強く抱き締め、ギラついた雄の目で俺を見つめて、
「……だから、
…岬も俺を愛せ。」
物分りの悪い子供に教え込むように、この台詞を俺の耳元で囁くのだ。…もう何十回ものこの台詞を聞いただろう。
…だが俺は一度もこの台詞に返事をしていない。
滝本のことは好きだ。
最初は大嫌いだったけど、今では愛してる。
…だから、
好きだからこそ俺は返事しないのだ。
滝本は何度も同じ台詞を吐き、何度も同じ行動を取る。その理由は、きっと俺が返事をしないからだろう。…別に滝本を不安にさせたいわけではない。
…ただ、返事をすればこの台詞を二度と聞けなくなると思うと、返事が出来ないのだ。
「……岬…」
「…ン、」
「分からないなら、もう一度教え込んでやる。」
「…ぁ、…滝本…、」
「…最初からな。」
俺はこの展開に笑みを浮かべる。
また身体で愛してもらえて、あの台詞を聞けるのだから。
…こんな風に考えている俺は、きっと滝本以上に所有欲が強くて、…狂っているのだろう。
でもこれも全部滝本の所為なんだから、滝本がきちんと責任を取るべきなんだ。
いつかきちんと「愛してる」と言ってあげようと思いながら、俺は今この瞬間の幸せを味わった。
END
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