短編集 | ナノ

 5





「ぁ、…ゃ、な、に…?」


…いや、訊かなくても分かる。
今更遅いのだが、俺は自分の置かれている状況に気が付いたのだから…。

だけど現実を受け入れたくない。
何で俺がこんな目に…。
何で俺何かを……。


まさか自分が滝本龍に性的対象として見られていたことなんて気付かなかった。…いや滝本龍からしてみれば、性的対象というより、“都合のいい性処理道具”としか思われていないのかもしれない。

男に掘られて堪るか。
俺はガクガクと震えて力の入らない腰を動かして、ドロドロに蕩けたケツ穴に宛がわれている滝本龍のペニスから離れようと身体を動かす。



「…ケツ振って、そんなに早く欲しいのか?」

「ぅぁ、ああ…っ」


しかし滝本龍は、そんな俺の逃げの行動を、尻を振って誘っていると勘違いしたらしく、興奮からなのか少し上ずった声で俺を苛めてくる。…しかもパンッという破裂音を立てながら俺の尻を力強く叩いてきたのだ。

…その衝撃に耐え切れず、俺は上半身を地面に預け、支えられている下半身のみ上げている体勢となってしまった。


「…堪んねぇな。

腰振って煽って、エロい顔して、

…ヒクヒクと物欲しそうに収縮しているエロ穴まで見せ付けやがって…っ。」


ゴクリと唾を飲み込む音が聞こえてきたのと同時に、再び俺の尻の穴に熱くて硬い物が宛がわれた。


「ひっ、ゃ、…ゃめろ…っ」

「……もう遅い。」

「え?…っ、…ひぁ、ああぁァ?!」


滝本龍の言葉と同時に、俺の中に質量の大きくて熱いのが入ってきた。
…後ろから入れられたため、見えないのが、……間違いなく滝本龍のペニスだろう。

いくら舌と指を使って解されたとしても、決してここは物を入れる所ではない。狭い腸内をこじ開けて拡張していくように、ゆっくりとペニスを奥深くまで挿し込んでくる滝本龍の動きに翻弄されながら、俺はあまりの痛みに涙を零しながら、飲みきれなくなった涎を地面に落とす。


「…ぁ、…ァ、っ、ひぁ…ァー…っ」

「……何だ、これ……っ」

「い、っ、痛い…っ、んぁあ…ァ」

「クソ、…とんでもねぇ身体しやがって…、」


痛みを訴えていると、滝本龍も辛そうな声を出して、低く唸っている。


「…ン、抜け、…よ、んぁ…ァっ」

「阿呆か…、」

「っ、ふぁ、…ン、動くな…ぁ」


尻に毛が当たっている感触があるから、きっとこいつは根元まで挿し込んでいるんだ。
…息をするのもキツいというのに、滝本龍は緩やかに腰を動かし始める。


「……ン、…も、許し……、」

「駄目だ。

……チッ、この体勢だと顔見れねぇな。」

「ァ、…っ?!…んゃぁあ…ァ」


許して、と懇願する俺の意思とは間逆に滝本龍は、四つん這いの格好をしている俺の身体を、ペニスを挿し込んだまま反転させた。

腸内を硬く大きいもので乱暴に掻き回された感覚に、俺は抑えきれない声を出して、泣き叫ぶ。


「…ひぃ…ぅ、ンぁ…ァ…」


そんな俺の様子を見て気を良くしたのか、滝本龍は仰向けの格好のまま俺を組み敷いて、口端から零れている涎をヌルリ…とした熱い舌で舐め取る。


「…も、…っ、ン、し、死ぬ…ぅ」

「……んなに、気持ちいいか…?」

「あぁ…っ、ンぁあ…ァ」

「答えろ。」

「ひぃっ…ぁあ…ぅ」


息を乱しながら腰を動かし、俺の首筋に喰らい付く滝本龍。本当に獣のようだ。
…油断していると、そのまま喉元を喰い千切られてしまいそうな程、ギラギラした肉食獣の様な目。


「…ふぁ、…ァ、…殺さないで…っ」

「……あ゛?」


おもわず思っていたことを、喘ぎと一緒に声に出してしまった。俺の素っ頓狂な言葉を聞いて、滝本龍も驚いているようだ。

……しかしすぐに捕食者のような鬼畜な表情をして、俺の首筋に吸い付いてきた。


「…何、お前?」

「……ンぁ…ァ、」

「可愛過ぎ……、」

「ぁ、…ゃぁ…ぁあ…っ!」


首筋を何度も吸われ、そして噛まれる。
その痛みに戸惑っていると、腸内に入り込んでいる滝本龍のペニスが一際大きくなったことに俺は驚く。


「…っ、あぁ…ァ、…ン、おおき…、」

「てめぇが、大きくさせてんだ…」

「そんなの、…っ、知らな、…ひぁ…ァ」


そしてその凶器の様なペニスで、俺の中をグチャグチャに掻き混ぜていく。卑猥な水音を立てながら、激しく腰を打ち付けられ、俺はその刺激から逃げるように、滝本龍の逞しい胸板を押し返す。

……しかし揺さぶられ快楽を感じ始めている身体は、俺の言うことを上手く聞いてくれず、俺は手に力を入れることが出来ず、ただ滝本龍の汗の匂いがするシャツに縋り付くことしか出来なかった。


「ぁあ…ン、んぁ…ァ、ゃ…っ」

「……そんな所握ってねぇで、こっちに腕を回せ。」

「ン、…ぁ、ゃ…ァっ」

「おらっ、」


滝本龍はそう言うと、シャツを握っている俺の腕を掴み、首元に腕を回させる。
……まるで恋人同士のような甘い雰囲気に俺は戸惑いながらも、抵抗することなど出来ず、…ただただ強い快楽に耐えるように滝本龍に抱き付いた。


「…ンぁ、…ぁあ…っ」

「……はっ、」

「ひぁ…ぁァン、…んぁあ…ァ」


より密着したことで、滝本龍の荒い息遣いが俺の耳元で聞こえる。……そんなことすらもドキドキしてしまうのは、何故だろうか…?

早い内に離れないと取り返しの付かないことになると思いながらも、…俺は滝本龍を拒絶することなど出来ずに、白銀の髪の毛を握り締める。

星と月の光で輝く滝本龍の髪の毛。
…まるで狼のような綺麗な毛に、目を奪われてしまう。


「……何、余所見してんだ?」

「ンぁあ…ァっ」

「てめぇを今抱いてんのは誰だ?……俺だろうが、」


そして何を勘違いしたのか、意識が自分から無くなったと思った滝本龍は、全てを打ち込むように俺の身体を乱暴に犯し始める。


「ひぃっ、ぃぁ…ぁぁああ…ン」

「…お前は俺だけ見てればいいんだよ。」

「っ、ンぁ…ァ、ぁあ…ァ」


パンパン、と肌がぶつかり合う。
グチュグチュ、と互いの液が混ざり合う。


…そんな音に感化された俺たちは、

どちらからともなく唇を重ねた…。






******




「は、離してください…っ、」

「…あ゛?」

「ひっ?!…す、すみません。な、何でもないです…っ、」


行為が終わって力の入らない俺の身形を整えてくれたのは、滝本龍だ。…節ばった男らしい指で、優しく俺の髪の毛を梳いてくれた。
あまりの気持ち良さにうとうとしていると、胡坐を掻いていた滝本龍の膝の上に座るように乗せられ、後ろから抱き締められ、肩に顎を置かれた。

…何でこんな恋人同士の様なことを…っ。
戸惑った俺は、解放してくれるように頼んだのだが、…やはり無残な結果となってしまった。



「……寒い…、」

「そりゃ、あれだけ身体動かして汗掻けば寒いだろ。」

「………っ、」

「声もいい感じに嗄れてんな。」

「…………、」


…俺は一体、この人にどういう態度を取ればいいんだ?

怒る?
泣き喚く?
悲しむ?


……それとも、


…甘える?



あ、阿呆か…っ。
……ば、バーカ、…んなことするか。


俺が取るべき行動は一つしかないだろう。
そう思った俺は、勇気を振り絞って滝本龍に殴られる覚悟で言葉を放つ。



「…も、もう俺に近寄らないでください…。」

「…は?」

「お、俺があんたの機嫌を損ねてしまったのかどうかは分からないけど、…俺に二度と近寄るな。」

「……………」

「…今日のことは忘れるから、…お前も忘れ……「…忘れられねぇよ……」


滝本龍は俺の言葉を最後まで聞かず、遮るように言葉を被せてきた。


「…何、言って…?」

「忘れられるわけねぇだろ……?」

「……わ、忘れろよ!今日、俺たちはここで会ってないんだ!そ、そうだ。…別に知り合ってもないし、……過ちも犯してない。」


男同士でしていいことではない。
…少しでも情事中にこいつを受け入れてしまったことは、…ただの気の迷いだ。
…そうだよ。俺はおかしくない。


「……お前は、俺を忘れられるか?」

「…………っ、」

「無理だろ…?」


俺の顎を掴み、滝本龍は噛み付くようなキスを仕掛けてきた。


強引な性格。
荒々しい口調。
鋭い目付き。
光輝く髪の毛。

……そして力強い腕に、

逞しい胸板。



先程のことを鮮明に思い出してしまい、俺は上昇していく体温に羞恥を感じて、荒々しくキスを仕掛けてきた滝本龍の胸板を叩く。
…すると思いの外、滝本龍は簡単に俺から離れてくれた。


「……っ、忘れられる…っ!も、もうお前のことなんて覚えてない…っ」

「へー……」

「…………、」


ニヤリと悪どい笑みを浮かべる滝本龍に怖気付きながらも、俺は自分の思いを伝えた。


…俺とこいつは正反対。
決して同じ領域にいてはいけない。



「…来いよ。」

「わっ…?!」

「……お前は、何も分かってねぇようだから、…一から教えてやるよ。」

「ちょ、…ど、何処に行くんだよ…?」

「俺の家。」

「はぁ?…だから、鍵が開いてねぇんだよ。」


腕を引っ張るから何処に行くのか訊ねれば、滝本龍は俺の家と一言だけ告げる。
…阿呆か。ここから出られねぇから、俺は仕方なくお前とここに居るんだろうが。


「……もし、開けられるとしたら?」

「は?…そんなことどうやって………、」


すると滝本龍は自分のポケットから鍵を取り出した。
……そして、俺の力ではビクともしなかった、屋上の扉を、

…いとも簡単に開けて見せた。



「……は?えっ、…な、ちょっ…?」

「行くぞ。」

「な、…持ってるなら、…さ、最初から…、」


あぁ…、もう何からつっ込めばいいのか分からない。
…俺の困惑する様子を見て、滝本龍は楽しそうに笑ってる。



「俺とお前は磁石のようだ。」

「………っ、」

「一度くっ付けば二度と離れられない。」

「…な、何を…、」

「離してなんかやらねぇから…。」






正反対だからこそ、引き合う。

一人では不完全。二人だからこそ成り立つ。

一度味を占めると二度と忘れることなど出来ない。

一度くっ付けば二度と離れることなど出来ない。


…必ず引き合う運命なのだ。





END


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