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「あ、…あの…、」
「あ゛?何だ?」
「ひっ?!…い、いえ、何でもありません…!」
「…………」
怖くて話し掛けることも出来ないよ…。
…で、でもそんなに怒らなくたっていいじゃないか。
俺はただ、幻覚だと思っていたから…。
……滝本龍でもいいから居てくれた方がいいと思っていた、俺が本当に馬鹿だ。
こんなんだったら、絶対一人の方がいいに決まっている。
大体何だよ。この気まずい雰囲気。
「…………」
「…………」
「………」
…もういい。
こいつは居ないことにしよう。
そうだ。俺は今一人でここに閉じ込められているんだ。そう思えばいいだけだ。
…しかし、寒いなぁ…。
時間が過ぎていくにつれて、段々と気温が低くなっている。しかも風が冷たいため、更に体温を奪われてしまう。
「……さ、寒い…、」
…クシュン、とくしゃみをすると、何故だか滝本龍が俺の隣に腰を下ろした。
な、何で?屋上にはこんなにも広いというのに、何故俺の隣なんだ?
「な、何ですか…?」
「……別に」
「………っ、」
少しでも動けば、滝本龍と肩が触れ合ってしまうような近距離。…チキンの俺がこんな不良の近くに居られるわけがない。
俺はすぐさま立ち上がって、滝本龍と距離を取るために離れた所まで移動して、俺は再び腰を下ろした。
「……な?!」
…しかし、チラっと滝本龍を見ると、立ち上がってこっちまで歩いてくるのが見える。俺は寒さと恐怖で身体を震わせながら、俺は息を呑んだ。
…そして無情にも、滝本龍は再び俺の隣に座ってきたのだ。
「…な、何?!」
「……別に」
「べ、別にってことないでしょう?…何で俺の隣に…」
「……ここは俺の場所だ。何処に座ったって問題ねぇだろうが。」
な、何ていうジャイアン発言だ…。
確かに屋上は滝本龍の住処とまで言われているが、別にこいつの家ではないはずだ。…そ、それなのに屋上の全ては俺の物みたいな発言しやがって。
「………っ、」
誰が不良と肩を並べて座れるか。
そう思った俺は、再び立ち上がって滝本龍と一番遠い所まで移動して、座る。
「……ちょっ?!」
しかし滝本龍は再び俺の座った隣に腰を下ろしてきた。「何隣に座ってんだよ、気持ち悪い。」何て口が裂けても言えない。…言いたいけれど言えない。
不満が爆発する前に、俺は再び移動をしようと立ち上がる。
……しかし滝本龍に腕を掴まれてしまい、俺は動くことが出来なくなってしまった。
「…な、何ですか?」
「……小動物みてぇに、チョロチョロ動くな。」
「…な…?!」
「ここに居ろ。」
「………っ、」
細長く鋭い目付きでそう言われると、怖くて嫌だとは言えない。…だけど何故そんなことを俺に言うのだろうか?
………しかし素直に従う俺ではない。
「…は、離してください…っ」
「離さない。」
「……何で……?」
「……いいから、ここに居ろ。」
「…っ、嫌だ、…離せ…!」
俺は我武者羅に滝本龍に掴まれた手を外そうと、腕を動かす。…しかし力の差は歴然なのか、全くビクともしない。だけど俺は何とか振り払おうと腕の力だけではなく、身体全体の力を使って外そうと試みた。
「……わっ…?!」
「…おい…っ、」
……それがいけなかったのだろう。
無理に身体を捻った所為か、身体がふら付いてしまい、…俺は頭から後ろに倒れてしまった。
「………っ、痛…、…くない…?」
しかし不思議なことに、痛みを全然感じなかった。
俺は衝撃で瞑っていた目を、恐る恐る開けてみる。
………と、そこには…、
「……危ねぇな…」
支えるように俺の身体を抱き締めている滝本龍の姿があった。
「……あ…」
頭を打ちそうだった俺の後頭部に腕を回して、身体を地面にぶつかる寸前に支えてくれたようだった。
……だから後ろから倒れたのに、痛くなかったのか。
だけど、…何で助けてくれたんだろう?
「……あ、あの、…ありがとうございます。」
「…あぁ。」
「……えっと…、」
助けてくれたのは嬉しい。…滝本龍が俺の腕を離してくれなかった所為だったけど、まさか助けてくれるとは思わなかったし…。
…だ、だけど、何でこの状態のままなんだ?
抱き締められるような格好のまま、俺は滝本龍の下に居る。
「……あの…、」
退いてくれるように滝本龍の胸元をやんわりと押すのだが、一向に退いてくれる気配すら見せない。
むしろ抵抗していると、俺の身体に回している滝本龍の腕の力が強くなってきたくらいだ。
……密着状態。
数十センチ先にある滝本龍の整った顔。
俺はどうするべきなのか迷いつつも、離してくれるように頼む。
「…あの、退いてもらえますか?」
「何で?」
「な、何でって…それは…、」
「…嫌だ、って言ったら?」
「……そ、それでも退いてください!」
「…………」
自己中心的というか、俺様というか…。
何で離してくれないんだろう…。
「…離してください…。」
「…………」
「は、離せよ…。」
「…………」
「……は、離せったら…!」
「…煩ぇ。黙れ。」
「な…、…っ?!…ン、ぅ…?」
何度も抵抗を続ける俺に苛ついたのかどうなのか知らないが、……まるで俺を黙らせるように、滝本龍は俺の唇を強引に奪った…。
「…ふ、…んぅ…」
頭の中はいきなりのことにパニック状態。
……な、何で俺が滝本龍にキスされてるんだ…?!
初キスを男に奪われた、と落ち込むより先に俺はずっと困惑している。
「……ン…、」
触れ合わせるだけだったのに、段々と行為はエスカレートしていく。
呼吸を求めて口を開ければ、その隙間に強引に舌を忍ばせてきた。…ヌルリと動く妙に熱い滝本龍の舌に戸惑いながら、俺はギュッと目を瞑る。
「…ふ、ぁ…ァ」
俺の舌と絡め合わせ、上顎を舐めた後、なぞるように歯列を舐める。…上手く呼吸が出来なくて、目元に薄らと涙が滲んできた頃に、やっと滝本龍は唇を離してくれた。
「……ぁ…、」
すると俺の舌と滝本龍の舌の間には、透明の糸が引く。そんな淫らな光景に俺は頬を赤く染めながら、いきなりの行動にただ口をパクパクと開閉するしかできなかった。
「……は、…エロい顔しやがって…」
「……な…?!」
「…んな顔してると、最後まで喰っちまうぜ?」
「何を、言って……」
「……あぁ、でももう無理だ。我慢出来ねぇ。」
「…え?あ、…ちょ、…ゃ、め…っ、ンぁ…」
事の状況に上手く付いていけていないというのに、滝本龍は更に事態を悪化させていく。
…何と俺のシャツを捲り上げて、手を忍ばせてきたのだから…。
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