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次の日、俺は学校へと向かった。
あれほどサボっていたというのに、今では休むことのほうが珍しい。しかも授業サボるとしても、それは“緑間同伴”でのサボりだ。
…一ヶ月前から俺の頭の中は緑間で埋め尽くされている。
教室に着くと、すでに緑間は自分の席に座っていた。
「…………、」
しかしいつもと違う。
ここ最近は子犬のように俺が来るのをまだかまだかと教室の扉をずっと見ていたというのに…。今日は目すら合わずに、緑間は机に突っ伏したままだった。
…今日は来るべきではなかったのかもしれない。
「クソ…、」
こっちを見ろよ。
俺を見ろ。俺だけを見ろ。お前は俺のことが好きなんだろ…?
…だが俺の思いは通じなかったのか、一向に緑間はこっちを見なかった。
「………、」
それなのに、…隣のやつとは喋っている。
俺とは視線すら合わせないというのに、何を他の男と楽しそうに喋っているんだ、お前は…?
俺以外の奴を見るなよ。俺以外の奴と喋るなよ。
お前は俺のことだけ考えて、俺の側に一生居ればいいんだ。
…何でそれが分からない?
隣の席の男と話しているときに見えた緑間の笑顔。
…俺と一緒に居るときにあんな笑顔はほとんど見せない。いつも俺の態度に怯えてビクビクしていただけ。
俺にはそんな綺麗な笑顔を見せねぇのに…。
そう思うと、沸々と怒りが湧き上がってきた。
もうこの怒りを抑制することなんて出来ずに、俺は緑間と喋っていた男を力任せに殴った後、
緑間の頬を叩いていた…。
「………あ…、」
俺の行動に教室内は一瞬ザワっとなった後、人が一人も居ないかのように静まり返った。
そんな静かな教室には、俺の声だけが響き渡った…。
思わず漏れてしまった声。
……俺は緑間を叩いてしまった。
手を上げるつもりなんてなかったのに、気が付けば緑間の頬を叩いてしまっていた。
もうこれで完璧に嫌われてしまっただろう。
しかし、絶望で目の前が暗くなる寸前に見えたのは…、嬉しそうに笑う緑間の顔だった。
「…何を、笑ってるんだよ…?」
「………俺、嬉しくて…」
「…は…?」
「俺、…どんなに藍崎に嫌われていようと、
藍崎の事が好きだよ…。」
「………っ、」
手を上げた俺に言う台詞ではない。
俺なんかが緑間にそんな事を言われる資格なんてない。
…だが俺は無意識の内に、緑間の手を引いて走っていた。
……今すぐ、二人きりになりたかったんだ。
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