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「……っ、クソ…、」
「ひっ…」
苛立ちを解消するべく、緑間の顔の横で壁を殴れば、悲鳴のような声が聞こえてきた。
「……………」
それすらもが俺にとっては、腹立たしい。
…何で怯える?
お前は俺のことが好きなんじゃねぇのか?
だったら怖がることなんてねぇだろ。
「…お前は、俺だけのことを見てろ。」
…違う。こんなことを言いたいわけではない。
こんなことを言えば、緑間に抱いている感情を気付かれてしまう。
「他の奴のことを考えるな。俺だけのことを考えてろ。」
だけど言わずにはいられない。
お前が俺を夢中にさせたんだ。
だから緑間は責任を取る必要がある。
「…でなければ、
俺の手で殺してやる。」
ソッ…と緑間の首を指でなぞる。
そうすれば緑間は息を呑む。
俺の物にならないのであれば、いっそ自分諸共壊れてしまったほうがましだ。
……何て歪んだ感情なのだろうか。
自分でも不気味に思う。
「……分かったな?」
「う、…うん…」
拒否を許さぬように低い声で訊ねれば、緑間は何度も首を縦に振る。
そんな従順な態度に、先程までのどす黒い感情が徐々に晴れていくのが分かる。
「…俺のこと好き、って言ってみな。」
「……え、あ、…あ、藍崎…?」
「言えねぇのか…?」
「ち、がうけど…っ、」
一瞬にして顔を真っ赤に染めて、慌てふためく緑間。
恥ずかしがっている様子が、一段と可愛いく見える。
「…えっと、その、…す、好き。
俺、藍崎のこと、大好き……っ。」
必死に伝えてくる緑間の様子から、嘘ではないことが分かる。
人に愛されることがこんなにも幸せなことなんて、知らなかった。
可愛くて堪らなくて、思わず緑間の頭を撫でてしまった。
…今更撫でている手を引っ込めることなど出来ずに、俺はそのまま柔らかい髪を撫で続ける。
そうすれば緑間は赤い頬を更に赤くして、嬉しそうに笑っている。
「……あ、あのさ…、」
「何だ…?」
「藍崎は?…あ、その、俺のこと、…好き?」
不安げに訊ねてくる緑間。
上目遣いが堪らない。
「……嫌いじゃねぇよ。」
素直になれない自分が歯痒い。
今すぐ好きだと言って、その細い身体を抱き締めたい。
抱き締めて、貪る様に唇を奪い、…身も心も俺色に染めてやりたい。
「……俺のこと好きになってくれる可能性はある?」
「…あるんじゃねぇか……?」
「ほ、本当?!…、俺、もっと頑張るから…っ」
ぶっきら棒にそう言えば、嬉しそうに笑う緑間。
俺の何処に惹かれたのか全く分からない。
俺にはお前は勿体無い。
……だが今更手放す気はない。
擦り寄ってきたお前が悪いんだ。
「…一生俺の傍から離れるなよ?」
「わ、分かった。」
言葉で「愛してる」なんて臭い台詞吐くより、その魅力的な唇を奪ったほうがこの思いをより早く伝えられるのだろうかと思いながらも、行動に移せず俺はただ緑間への愛情を増やすばかりだった。
END
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