短編集 | ナノ

 駆け出した愛




・藍崎視点







緑間の熱烈な告白を受け、「俺を本気にさせてみろ。」と言ってから数週間が経つ。
それなのに緑間の態度は、前と全然変わらねぇ。
それどころか緑間は、俺と目が合えば顔を真っ赤にするだけですぐ逸らしやがる。

「頑張るから」と言っていたくせに、何も仕掛けてこないじゃねぇか。
苛立ちで眉間に皺が寄るのが分かる。舌打ちをすれば、近くに居るクラスメイトが怯えているのが分かり、更に俺を苛つかせる。




あぁ、あれから変わったことが一つだけあった。



…それは、


俺がよく緑間を見るようになったことくらいだ。
これではまるで、俺のほうが緑間のことを好いているようじゃねぇか。

むかつく。
苛々する。
俺の苛立ちは何も仕掛けてこないことではなく、俺以外の男と楽しそうに話している緑間の所為だろう。



「あれ?シャンプー変えた?」

「よく分かったな、緑間。」

「前の凄くいい匂いだったから。」

「何だ、今のは嫌いなのか?」

「嫌いじゃないよ、凄くいい匂いがする。」


そう言うと男は、俺の緑間と肩を組む。
緑間も抵抗なんてせずに、楽しそうに笑っている。



「こっちの匂いのほうが好きかも。」



笑顔で他の男に“好き”だと言う緑間に、ついにぶち切れた。
俺は緑間と肩を組んでいる男の頬を拳で殴り飛ばす。
そうすればクラス内は甲高い悲鳴に満ちる。
驚いている緑間の腕を握り、無理矢理連れ出す。


「い、痛いよ…っ」


握り潰すように掴んでいるせいか、緑間は顔を歪めて悲痛な声を出す。
そのことが妙に俺を満足させる。



“そうだ、もっと俺を見ろ。”



緑間を人気のない便所にまで連れて来て、個室に入り鍵を閉める。
ドンッと壁に押しやれば、緑間は衝撃に目を瞑っている。



「あ、…藍崎…?」

「…てめぇは、本当に俺が好きなのか?」

「……う、うん…っ」


頬を真っ赤に染めて、何度も何度も首を縦に振る緑間。



「…違うんじゃねぇか?お前は“俺”ではなく、ただ男が好きなんだろ?」

「ち、違うよ。…お、俺は本当に藍崎のことが…、」

「……っ、だったら……、」


何で俺を見ない。
他の男と喋るんだ。


思わず声に出てしまいそうだった…。
俺は口を噤む。

言って堪るものか。
絶対に言ってやらねぇ。



…だって俺の方が、緑間のことを好きだと言っているようなものじゃねぇか…。





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