短編集 | ナノ

 2






「…、嫌いに、…ならいで…、」

「…………」

「俺、何でも、…ふ、…ぅ、するから…」

「…………」



…こいつは一体、俺なんかの何をそんなに好きになったんだ?
小さい頃から、親からも教師からも邪険に扱われ、…もちろん仲間といえる存在もなく、ただ勝手に俺の後ろを付いてくる奴らしかいなかった。


それを寂しいなんて思ったことはなかった。
これが俺にとっての、“普通”だと思っていた。



……だけど、こいつは何だ?




「…藍崎……、」

「……緑間…」


勝手に人の心に土足で入り込んできて、荒らしていきやがって。



「俺の、…こと、嫌い…?」

「…………」

「男は嫌?…しつこいのも嫌?」

「…………」

「……ぁ…」


ポロポロと流れ落ちてくる、緑間が流した涙。
指の腹で拭ってやると、一瞬震えた後、嬉しそうに緑間は笑った。

綺麗な笑顔が俺なんかに向けられているのは勿体無いと思ったが、あまりにも可愛い笑みに、おもわず上に跨っている緑間の身体を抱き締めてしまった。


……抱き締めてしまった後に後悔しても遅い。
今更突き放すことすら出来なくて、俺は腕の力をより強くする。



「……あ、いざき…、」

「………しつこい奴は、嫌いだ。」

「………っ、ご、ごめん、なさい…」



違う。
俺が言いたいのはこんなことではない。
別に緑間の悲しむ顔や、謝罪が聞きたいわけではない。


……こんなことではなく、




「……だが、


別に緑間の事は嫌いではない。」



自分でも何を言っているのか分からなかった。
言っていることがちぐはぐだ。
……だけど、言った事は嘘ではない。




「……本当?」

「…………」

「俺の事、嫌ってない…?」

「………あぁ」

「……嬉し…っ…、」



…何だこいつは。
嬉しいくせに、また泣くのか?
「面倒な奴だ」と思いながらも、再び涙を拭ってやる自分が居ることは、どういうことなのか…。




「……嫌いじゃないってことは……」

「……何だ?」

「…そ、その、…俺のこと、好き……?」

「……………」




“好き”。
そういう感情など、持ったことがない。
…むしろ“嫌いではない”という感情を持ったことすら俺は初めてなのだ。


大抵は“どうでもいい”。




「……俺と、付き合いてぇのか?」

「…う、…うん」

「…………」

「……やっぱり、嫌…?」


不安そうに訊ねてくる緑間を見て、自然に俺の口角は上がる。



「……いいぜ。」

「……え?!」

「俺のこと、…本気にさせてみろ。」

「……本気……、」

「……そしたら、付き合ってやる。

お前の彼氏になってやるよ。」



まるで愛を囁くように、耳元で甘く囁けば、緑間は顔を真っ赤にして、首を縦に何度も振る。



「……本気に、させればいいんだろ?」

「………あぁ」

「俺、…が、頑張るから……、」




……俺の答えは決まっている。
だけど今まで人との関わりを避けていたのが、ツケが回ってきたのだろう。


“素直になれない”



上手く口では説明出来ない歯痒さに陥りながらも、嬉しそうな緑間を見て、「…まぁ、悪くない」と思ってしまっている自分が居るということは、意外と絆されてしまっているのかもしれない。



更に腕の力を強め、俺は緑間を抱き締めた。
……密着感が増したことで、俺の匂いが好きな緑間が興奮して勃起したことは、言うまでもないだろう…。




END


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