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「…、嫌いに、…ならいで…、」
「…………」
「俺、何でも、…ふ、…ぅ、するから…」
「…………」
…こいつは一体、俺なんかの何をそんなに好きになったんだ?
小さい頃から、親からも教師からも邪険に扱われ、…もちろん仲間といえる存在もなく、ただ勝手に俺の後ろを付いてくる奴らしかいなかった。
それを寂しいなんて思ったことはなかった。
これが俺にとっての、“普通”だと思っていた。
……だけど、こいつは何だ?
「…藍崎……、」
「……緑間…」
勝手に人の心に土足で入り込んできて、荒らしていきやがって。
「俺の、…こと、嫌い…?」
「…………」
「男は嫌?…しつこいのも嫌?」
「…………」
「……ぁ…」
ポロポロと流れ落ちてくる、緑間が流した涙。
指の腹で拭ってやると、一瞬震えた後、嬉しそうに緑間は笑った。
綺麗な笑顔が俺なんかに向けられているのは勿体無いと思ったが、あまりにも可愛い笑みに、おもわず上に跨っている緑間の身体を抱き締めてしまった。
……抱き締めてしまった後に後悔しても遅い。
今更突き放すことすら出来なくて、俺は腕の力をより強くする。
「……あ、いざき…、」
「………しつこい奴は、嫌いだ。」
「………っ、ご、ごめん、なさい…」
違う。
俺が言いたいのはこんなことではない。
別に緑間の悲しむ顔や、謝罪が聞きたいわけではない。
……こんなことではなく、
「……だが、
別に緑間の事は嫌いではない。」
自分でも何を言っているのか分からなかった。
言っていることがちぐはぐだ。
……だけど、言った事は嘘ではない。
「……本当?」
「…………」
「俺の事、嫌ってない…?」
「………あぁ」
「……嬉し…っ…、」
…何だこいつは。
嬉しいくせに、また泣くのか?
「面倒な奴だ」と思いながらも、再び涙を拭ってやる自分が居ることは、どういうことなのか…。
「……嫌いじゃないってことは……」
「……何だ?」
「…そ、その、…俺のこと、好き……?」
「……………」
“好き”。
そういう感情など、持ったことがない。
…むしろ“嫌いではない”という感情を持ったことすら俺は初めてなのだ。
大抵は“どうでもいい”。
「……俺と、付き合いてぇのか?」
「…う、…うん」
「…………」
「……やっぱり、嫌…?」
不安そうに訊ねてくる緑間を見て、自然に俺の口角は上がる。
「……いいぜ。」
「……え?!」
「俺のこと、…本気にさせてみろ。」
「……本気……、」
「……そしたら、付き合ってやる。
お前の彼氏になってやるよ。」
まるで愛を囁くように、耳元で甘く囁けば、緑間は顔を真っ赤にして、首を縦に何度も振る。
「……本気に、させればいいんだろ?」
「………あぁ」
「俺、…が、頑張るから……、」
……俺の答えは決まっている。
だけど今まで人との関わりを避けていたのが、ツケが回ってきたのだろう。
“素直になれない”
上手く口では説明出来ない歯痒さに陥りながらも、嬉しそうな緑間を見て、「…まぁ、悪くない」と思ってしまっている自分が居るということは、意外と絆されてしまっているのかもしれない。
更に腕の力を強め、俺は緑間を抱き締めた。
……密着感が増したことで、俺の匂いが好きな緑間が興奮して勃起したことは、言うまでもないだろう…。
END
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