▼ 走り出した恋
「性癖」の続編、藍崎side。(告白/裏無し)
・藍崎side
「あ、藍崎っ、…ま、待って…、」
「……………」
「待てって……っ」
教室から出て行った俺の後を追ってきたのか、後ろから緑間の声が聞こえてくる。
『俺、…あ、藍崎の事、好き……っ』
涙を零しながら、阿呆みたいに何度も何度も俺を好きだと言っていた。
……不思議と嫌ではなかった。
むしろ誰かに好かれていたという事実に、内心喜んでしまっている自分が居ることが気に食わない。
あんな変態野郎なんかどうでもいいはずなのに、あいつの熱い視線と、泣き顔が頭から離れない。
「…あ、藍崎…っ!」
「………離せ。」
呼吸を荒くして俺の名前を呼ぶ緑間。
掴まれた腕を振り払えば、細い体付きの緑間はそれだけでよろめいている。
…そしてそのまま床に尻を付いて倒れた緑間。
痛みと衝撃に目を瞑っている隙に、そのまま歩き出そうとすれば……、足首を掴まれた。
「…やだ、…行かないでくれ…、」
「…………」
「お、ねがいだから……」
「………っ、」
蹴り飛ばそうとした瞬間、俺の視界に入ってきたのは泣きながら俺に懇願している緑間の姿。
……先程教室であいつのイった顔を見た時と同じように、何故か感じたことのない、興奮感が沸々と湧き上がってくる。
「………は、なせ…」
「や、やだ…っ」
「離せ、緑間。」
「………ぁ…、」
すると何故か、顔を歪めて泣いていた緑間の表情が変わった。一瞬真顔になったかと思えば、涙を流しながらふにゃりと気の抜けた笑みを浮かべる。
「…………っ、」
何て顔しやがるんだ、こいつは…。
「き、気持ち悪いんだよ、てめぇ…っ」
「…だって、…藍崎が俺の名前知ってたから。呼んでくれたから…。」
「……同じクラスだろうが。」
「で、でも…、俺にとっては嬉し過ぎる…」
そう言って緑間は、再び締まりのない笑みを浮かべた。
……あぁ、駄目だ。
こいつと居たら、駄目になる。
本能がそう叫んでいる。
俺は荒々しく緑間を蹴り、足首を掴んでいる手を振り払う。
「……痛…っ」
「…痛いのが嫌なら、俺に近寄るな。」
「あ、いざき……」
「…蹴り殺すぞ。」
地を這うような低い声を出して、地面に倒れている緑間を睨み付けてそう言えば、緑間はそれ以上何も言ってこなくなった。
「…………」
そうだ。それでいい。
俺はもう少しで気付いてしまいそうな感情を押し込んで、緑間の元から離れるため歩き出す。
……俺とあいつは、
近付いてはいけない。
「…………っ、」
……しかし緑間は納得してくれていないようだ。
何と緑間は、俺を押し倒す勢いでぶつかってきたのだ。
「……てめぇ…」
不意打ちに緑間の身体諸共、俺は倒れ込む。
「…い、嫌だ…!」
「………死にてぇのか…?」
「お、ねがい、…離れないで…、」
「……くそ、」
「……お願いだから、…俺の事好きになって…、」
俺の上に緑間が跨って居るため、涙が俺の頬にまで零れ落ちてきた。
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