▼ 愛する事は罪なのか
真田は頑なに病院に行く事を拒む。
俺とは比べようもないくらいに大怪我を負っているというのに。手当てをするために上半身裸で居る真田の身体は何処も青痣だらけで、顔も腫れ上がっている。見ているこっちが痛いくらいだ。…そして一番酷いのは、この手だろう。
俺を守るために、手錠を外すため手の肉を削いだんだ。家に着いた今でさえ、まだ血は止まらない。
俺はそんな真田が負った至る所の傷を、ガーゼや包帯で応急処置をする。
「悠斗」
「どうした、何処か痛い所あるのか?」
「俺はいいから。お前の傷を見せてみろ」
「俺のなんか掠り傷だ。全然痛くないから。少しは自分の心配をしてろ」
「はっ、…言うようになったな」
「言わないと真田は分かってくれないだろ」
きっと喋るのだって辛いはずだ。
明日には熱が出そうだな。真田が寝た後、薬と熱冷ましシートを買いに行かないとな。そんな事を考えていると、真田は怪我していない方の手で俺の顔に触れてきた。
「…何?」
「…本当は痛い、だろ?」
「だから、痛くないって」
「………」
俺も意地になってそう言えば、真田はまだ俺の返答に満足していないようで、難しい顔をして眉間に皺を寄せた。
「…そんなに、俺の事が心配なのか?」
「………」
「どうなんだよ?」
「…心配して、悪いかよ?」
ぶすっとふてくされながら呟いた真田は何故か少しだけ可愛く思えた。俺はそんな真田を見て苦笑いを浮かべる。
「それなら病院に行こう」
「……」
「俺は真田の怪我が心配だ。…まだ、血が止まってないし。それに病院に行けば、俺の傷だって治療出来るだろ?」
きっとこう言えば病院に行くと言ってくれるだろうと思っていたのだが、俺の思惑とは裏腹に真田は「嫌だ」とぶっきら棒に一言だけ喋った。
「…何でそこまで行きたくないんだ?」
病院が嫌いなのか?
いや、そんなわけはないだろうし。何か理由があるのだろうか。
「……」
「…真田?」
すると真田は一際低い声を出して、ぽつりと話し出した。
「俺の、…」
「え…?」
「………、」
「…?」
「…っ、…悠斗をこれ以上他の野郎に触れさせたくねぇからだ」
そして極め付けに、「皆まで言わせずそれくらい察しろ、鈍感」と何故か怒鳴られてしまった。
「……っ、」
俺はその言葉を理解するまでに十秒掛かった。
そして頬が段々と熱くなる事に気が付いたのはそれから十五秒後の事。
その上、赤面するそんな俺を見てつられるように顔を赤らめた真田が見れたのはそれから十秒後の出来事だった。
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