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※この話はとある少年漫画に感化されて、カッとなってかいた話です。似たよった部分がありますので、そういうのが苦手な方は閲覧をお控えしてくださいませ。「やめ、…止めろ!」
衝撃で真田の身体が揺れ動く。手からは血もたくさん出て、出血と今までの暴行で立っていることさえもやっとだと思うのに、真田は俺を守るようにして一歩も動かない。このまま倒れれば、男は真田から俺に標的をチェンジして楽になるかもしれないというのに、何でこんな事を…っ。
「真田、…おれ、大丈夫だから…、」
「ゆ、うと…泣くな」
「…だ、って…」
手錠さえ外れてくれれば男から逃げれるのに、おもちゃの手錠なんか使うわけもなく、いくら乱暴に動こうともビクともしない。しかし真田はこの手錠を自力で外したのだ。…自分の手の肉を削いで。
俺なんかを守るために…。
「ふ、…ぅ」
「泣くな、すぐに…、っ、…来る。」
「……誰が、こんな所に来るんだよ…ぉ」
こんな人気がなさそうな場所に誰かが来るとは思えない。俺はいつまで自分の所為で好きな人が、殴られ蹴られる姿を見続けなくてはいけないのだろうか。
もう嫌だ。後一秒だって見られるわけがない。
だけどどうすればいいのかも分からなく、俺はただただ自分の惨めさに泣き叫んだ。
「お願い、おねが、いだから…止めて…」
俺の言葉などもう男には届いていないのだろう。
真田のくぐもった悲痛な声がすぐ耳元で聞こえて、せめて耳だけでも塞いでいられたら楽かもしれないのに、手錠の所為で音を閉ざすことさえも出来ない。
「さな、だぁ…っ」
「…ゆうと、大丈夫だから、泣くな…、」
「ふ、…ぅ、」
真田が死んでしまう。
……どうすればいいんだ。何でこんなときに俺は役に立たないのだろう。
誰か助けて。お願いだから、誰か助けて…っ。
そう願った瞬間、奇跡でも起こったのだろうか。
…何と閉ざされていた扉が開いたのだ。
「真田さん!」
開かれた扉の方向を見れば、真田が辞めたと言っていたチームのメンバーが大勢居た。俺の事を乱暴にした人も居る。
だけど数十人も居る救世主に、俺は嫌悪感を抱かず、それよりも助けてくれと何度も叫んだ。こんな奴らに助けを求めるのは嫌だけど、そんな事すら構っていられないほど俺は声が枯れるほど叫び続けた。
「……ひ、…っく、」
「悠斗、」
「…ば、かやろ…、」
「ああ、俺は本当に馬鹿だ」
真田の元チームの人達が来てから、呆気ないほどに決着は付いた。いくら強い人といえど数十人相手には勝てはしなかったのだ。
今はあの男もチームの人達もこの場には居らず、俺と真田だけが残っている。
俺は自分の不甲斐なさに泣きながら、未だに流れ続ける血を止めるため、真田の手の平に布を巻く。
「…こんな、ことして、俺が…喜ぶと、思ってんのかよ……?」
「悪い…」
「…ば、か…」
こんな事言いたいわけではないのに、口から出るのは真田の行動を責める言葉のみ。
ありがとうとか、ごめんなさいとか、色々あるのにどうしても言葉に出来ない。
「悠斗、泣くな」
「うる、さい」
「…俺は大丈夫だから」
「………っ、」
何処をどう見れば大丈夫なのか分からない。
意識を保っているだけでも辛そうなのに。
「………大丈夫?」
「悠斗?」
「……他に痛い所はないのか?」
「…ねぇよ。」
「………」
「何処も、痛くない。」
怪我をしていない手で俺の頭を優しく撫でてくれた。
それにしても何で真田は抵抗しなかったのだろうか。手錠が外れてから、俺の事を守ろうとせず男の事を殴り倒そうと思えば出来たはずだ。
「……あの」
何であいつの事殴らなかったんだ、そう訊こうとした瞬間、ふわりと真田に優しく抱き締められ、
「…約束、守り続けるからな。」
掠れた声で低くそう言われた。
そして俺は今朝真田と約束した内容を思い出した。
“「喧嘩、…もうしねぇから。」”
まさか俺との約束を守るために、抵抗しなかったというのか。
「……っ、馬鹿…」
その事に俺はただただ涙を流して泣き続けた。
ああ、何て馬鹿で単純で愛しい人なのだろう。
泣き続ける俺を何も言わず抱き締めてくれる、真田の体温に安心しながら、俺はそっと目を閉じたのだった。
END
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