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「………っ、」
「どなたですか?大輝のお友達?」
誰だ、この女?
“大輝”なんて、あいつのことを親しげに呼んで。
友達?
セフレ?
…それとも、
恋人……?
「……あのー…、どうかしました?」
「…………っ…」
モヤモヤを通り越して、何故だかキリキリと痛いほど締め付けられている。
「…おい、勝手に出るんじゃねぇよ。」
「………あ、…真田……、」
「悠斗、お前……」
そして真田は、目の前の女を押し退けてやっと俺の前に姿を現せた。
いきなりの訪問者が俺だったことに、若干驚いているようだった。
…だけど今の俺にはそんなことを気にしている余裕はない。
「………っ」
「…悠斗…っ、てめぇ、待て……、」
一目散に逃げ出す俺に、焦りを含んだ真田の声。
しかしそんな制止の声を俺が聞くわけもなく、ただただ現実から逃げるように、足を止めずに走り出した。
「…悠斗、待て…っ」
「………ぅ、離せ……っ!」
「逃げるんじゃねぇ!」
しかし俺が真田から逃げれるわけがない。
その証拠に今まで逃げても捕まってばかり。逃げられたためしがない。
…今回もあっさり、捕まってしまった。
「おい、暴れるな。」
「やめ、…は、離せ…っ」
「……おま……、何泣いて……」
「ち、がう…、泣いてなんか………、」
胸の痛み。
何か訴えたいのに、叫びたいのに、何かが邪魔して言葉に出来ない。
……胸のモヤモヤは大きくなり過ぎて、苦しくなる一方だ。
「…離せよっ、…くそ…、離せったら…っ」
「そんな顔してる奴を一人に出来るか…」
「……ふ……っ、ぅ…く」
大の男がしゃくり上げながら、涙を零して泣き出している。
みっともない姿の俺を見て、真田は迷惑そうな表情も態度も見せることなく、……俺のことを力強く抱き締めてくれた。
「……や、めろよ…、離せ…っ」
「煩い、黙ってろ。」
「……な、んで……」
力強い真田の抱き締め。
…暖かい温もりに思わず、自分の身体を全て預けたい気持ちになってしまうが、…今の俺にはそんなこと無理だ。
俺は逞しい胸板をドンドンっと何度も叩く。
「…離せよ!」
「悠斗………、」
「俺のことなんか、何も思ってないくせに…っ、…綺麗な彼女が居るくせに…っ」
「………悠斗」
駄目だ…。
止まらない。
涙も嗚咽も、自分の気持ちを抑えることも、
…出来やしない。
「俺の心、勝手に掻き回すだけ掻き回しやがって……、
責任取れないなら、俺の事なんか構うな…っ」
止まらない涙。
自分が何故こんなに悲しんでいるのか分からない。
……だけどその理由が、こいつの所為だということだけは分かる。
これだけ不満ばかり言えば真田だって俺の事を離してくれるだろう。
…俺は再び逃げ出そうと試みたのだが、真田の腕の力は一向に弱まらない。
……むしろ、
何故だか強くなってような気がする。
「……何、お前……?」
「さ、なだ…、離せ…、」
「……お前、可愛過ぎ…っ」
「…………っ?!」
熱っぽい真田の声。
何処か甘くも感じられる。
……何で?
「……嫉妬、したんだろ?」
「……は?誰が…?」
「悠斗、お前だよ。」
「なっ…?!何で俺がそんなことを…っ」
“嫉妬”だと?
誰がそんなことを?
…それに誰に嫉妬なんてするんだよ。
「さっきの言葉、聞き手からすれば、
…すげぇ、熱烈な告白だよな。」
…見たこともないくらい、甘く優しい真田の表情。
こいつにもこんな表情が出来るんだ、と思う暇すらなく、俺は思わず真田の表情に見惚れてしまった。
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