▼ 一方通行なんて許さねぇ
ゆめ様、燭様、蓮条様/「真田×悠斗。真田嫉妬/独占欲全開/甘裏」
あの日、俺は男に犯された。
たくさんの手に、男性器。多人数の男に身体を弄ばれ、暴行をされる。
恐怖を通り越した所で、芽生えてきたのは“憎悪”。
復讐を考えもした。
…しかしその考えはすぐに拭われることとなった。
何とあの真田が、俺を犯した三嶋達を病院送りにしたそうだ。
俺としては嬉しいことだが、何で真田がそんな行動を取ったのか分からない。
…だって現に真田は、まだ俺のことを犯し続けているのだから……。
あいつからは逃げたくても逃げれない。
今だってそうだ。もしかしたら何処かで見張られているのかもしれない。…そう考えるとゾッとする…。
男の俺なんかを犯して何が楽しいのだろうか…。
「…ちょっと、悠斗聞いてるの?」
「……あ、うん。ちゃんと聞いてるよ、真由美。」
「…でね、そのとき梨香どうしたと思う?」
……いけない、いけない。
久しぶりの女の子とのデートなのに、何であんなことを思い出しているんだ俺は…。
今はあの悪夢のことなんて忘れて、楽しもう。
俺は繋いでいた手を離して、真由美の肩に手を置いて引き寄せた後、耳元で「二人きりになれる場所になりたい…」と囁く。
そうすれば真由美は頬を赤らめた後、静かにコクンと頷いてくれた。
そうと来れば、後はホテルに行くだけだ。
俺は真由美の肩から手を外して、もう一度小さくて柔らかい手を握る。
「…行こうか。」
「……うん。」
そしてホテル街へと足を進めたとき、
……俺の電話が鳴った。
俺はズボンのポケットから携帯を取り出す。
もちろん電話に出るためではない、マナーモードにするためだ。女の子とデートをしているときくらいはエチケットをしっかり守らないといけないからな。
とりあえず着信相手の名前だけを見てみる。
……その瞬間、俺の身体は大袈裟なほど飛び上がった。
「……な、……何で…?」
…何で、あいつの、“真田大輝”の名前が表示されてるんだ…?
俺は自分で登録した覚えなどない。…もしかしたら俺の知らない間に、あいつが登録したのか?
俺の困惑を無視するかの如く、携帯電話はプルルル…と鳴り続く。
どうするべきなんだ…?出るべきか?
いや、そもそも俺に選択肢など与えられてないのだ。
この電話に出るしかない…。
「……も、しもし…、」
俺の声は情けないほど震えている。
そんな俺の怯えた声を聞いたからなのか、真田が喉元で笑う声が電話越しに聞こえてきた。
「…な、何の用だよ…?」
『…仕置きが必要だな。』
「は………?」
『……女なんかと、
何処に行くつもりだ?』
「……ひっ?!」
地を這うような怒りを露にした低い真田の声。
俺はおもわず携帯電話を落とす。
しかし落としてしまった携帯電話など気にしている暇などない。俺は勢い良く後ろを振り返る。
「……っ、」
…何処か近くに居る…っ。
俺を見てる。何処かで見られてる…。
「…悠斗?どうしたの?」
「ご、ごめん、…お、…俺…、」
逃げないと…っ。
捕まったら最後だ。…もう逃げられない。
俺は真由美の制止の声など耳に入る暇もなく、文字通りその場を逃げ出すように走り出した。
「……は、…ぁ、っ、」
走る。走る。走る。
息が苦しい。
けど止まったら駄目だ。
真田に捕まる。
…もう犯されるのは嫌だ。
「……は、…っ、」
だけどもう体力の限界だ。
何処かで一度身体を休めないと…。
きっと真田は、もう俺の居場所は掴めていないはずだ。…だって俺は全速力で走ってるんだ。
分かるわけがない。
そう思った俺は、乱れた呼吸を整えるため路地裏に入り身を潜める。
「………、」
大丈夫。
絶対大丈夫だ。
バレはしない。いくら真田だって今の俺の居場所を分かるはずがない。
そう、大丈夫なんだ。
だからこの煩い鼓動と荒い息を何とか静めないと…。
……ザッ。
「…………っ?!」
俺一人しか居ない静かな路地裏に、砂が擦れた音が聞こえてきた。…誰かが近くに居る…っ。
「…………っ、」
大丈夫。絶対大丈夫だ。
真田じゃない。…そう、きっと誰かが立ち寄っただけだ。
こんな一通りの少ない所を真田にバレるわけ…、
「……みーつけた。」
「……っ?!」
先程の電話で聞いた声の主と同じ声が頭上から聞こえてきて、俺はビクッと身体を震わせる。
「………ぁ、」
…な、んで…、
何で見つかるんだ…?
何で、…お前がここに居るんだよ…っ。
「…さ、なだ…っ」
みっともないと罵られてもいい。
恐怖で抜けてしまった腰。立てなくなった俺は四つん這いになりながらも、目の前の真田から逃げようと足を引き摺って逃げようとする。
…しかし、真田が俺を逃がしてくれるわけもなく…、
「…鬼ごっこは終わりだぜ?」
「……ぁ、」
逃げ出そうとしている俺の首根っこを掴んできた。
「…や、だ、…は、離せ…っ」
「ふざけんな。」
「…っ、やだ…、」
「俺は鬼ごっこなんて糞つまらねぇ子供の遊びに付き合ってやったんだぜ?…お前も付き合えよ。」
「………ゃ…、」
「子供の遊びじゃなく、大人の遊びだがな。」
楽しそうな表情を浮かべているものの、真田の声は相変わらず怒りを抑え切れていない低い声。
その表情と声とのギャップが、逆に俺の恐怖心を煽る。
「……さな、だ…、」
「仕置きの時間だ、悠斗……、」
一際低い真田の声が聞こえてきた瞬間、鳩尾に痛みが走る。殴られたのだと理解できる前に、俺の意識はそこで途切れた……。
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