短編集 | ナノ

 2(真田視点)






そして俺は次の日も、いつもの時間に、いつもの席で、いつも飲んでいる酒を頼む。
そしていつもと同じように、苛々しながら強い酒を飲んで、一日を終えるはずなのだが、…何だか妙に落ち着かない。



…昨日とは違う。
隣にあの男が居ないのだ。
一昨日までは俺の隣には誰も居ないことが当たり前だったはずなのに、…何故だか落ち着かない。



「…クソが…っ」


俺は何とも言えない苛立ちを抑えるため、強い酒を何度も煽る。…そうすれば少しはこの妙な苛立ちが消えると思ったのだが、それは逆効果だったようだ。


酒を飲めば飲むほど、あの男の泣き顔を思い出してしまう。



「……チッ」



俺はいつもよりも何倍もの強い酒を何杯も飲んだ後、昨日のように、その場から立ち去った。








「……雪…」


店から出れば雪が降り出していた。
寒いはずなのに、酒を飲んで体温が高くなっている所為か、妙に暑く思える。


早く家に帰ってシャワーでも浴びて、余計なことを考える前に寝ようと、路地裏を通ろうとした瞬間、大勢の男の声が聞こえてきたため、俺は足を止めた。






『おい、てめぇふざけてんじゃねぇぞ。』


『乱暴に犯してやる…!』


『…っ、…やめ…ろ…っ』




どうやらレイプ現場に、俺は立ち合わせてしまったようだ。




「…チッ」


…ついてねぇ。
俺は今日何回目なのか分からない舌打ちをする。
俺はとりあえずこの苛立ちを晴らすために、野郎共を殴ろうと考え、止めていた足を路地裏へと進めていく。




『…はな、せ…っ』


『無駄な抵抗するんじゃねぇっ』


『おい、あれを飲ませろよ。』


『それいいな。どうせならグチャグチャになるまで、犯してやろうぜ。』




男たちの下世話な話を聞きながら、俺はどんどん近づいていく。夢中になっている男たちは、俺の存在に気付いていないようだ。

…そして俺は男たちの顔が分かるぐらいまで近づくと、あることに気付く。




何と、そこには男しか居ないのだ。
どうやら男をレイプしようとしていたようだ。


俺はもう一度チッ…と舌打ちする。





「…おい、てめぇら………っ?!」


俺は眉間に皺を寄せて、男たちに声を掛けた瞬間、俺は更に驚くとになった。




…何とレイプされそうになっていた男は、




昨日俺の隣に居て、俺の目を奪いやがった野郎だったから…。








それからはあっという間だった…。
俺は理性がない獣のように、何かを考える前に身体を動かしていた。
あの男を囲んで脱がそうとしていた屑共の腹や顔に、蹴りを入れ、そして殴り飛ばす。


何でこの男が襲われて、苛立っているのか分からない…。苛立ちを晴らすために、屑共を殴っているというのに、全然晴れはしない。

むしろ先程よりも苛立ちは酷くなっている。
何故だ?…分からない。






これも全部、



この男の所為だ。








「…………おい。」


全員が気絶してもなお、俺は苛立ちを晴らすため屑共を殴り続けた。しかしどれだけ拳を振るっても、蹴りを入れても、いつものように苛立ちが晴れない。

殴ったときに浴びてしまった、汚らしい血飛沫を拳で拭い、地面に座り込んでいる男に声を掛ける。


……しかし、返事は返って来ない。




「…チッ」



そして俺は再び、舌打ちをする。




「…聞こえてんのか?」


膝を抱えて身体を震わせている男の胸倉を掴む、乱暴に立たせる。




「……や、やめ、さ…触るなっ…」



男の表情を見て、俺はおもわずあのときのようにゴクリと喉を鳴らした。


赤くなった頬を伝う涙。震えている声。弱々しく抵抗する手。



…ねじ伏せてぇ。
男のこいつに俺は欲情しているのだと、改めて気付く。



「他の男に泣かされてんじゃねぇよ…」


昨日も今日も、この男を泣かせたのは他の奴だ。
…そう思うと、無性に腹が立つ。

お前は俺の手で、…俺の下だけで泣いてればいいんだ…。



俺は男の腰を引き寄せ、男の脚の間に自分の脚を入れ込んで、完全に勃ち上がったチンポを擦り付ける。



「は、…なせ…っ!」


お互いのものが擦り合って、俺は気付く。


…こいつも勃ってやがる。




「…ん、…やめ、ろ…っ」



赤くなった頬。潤んだ瞳。零れ落ちる涙。妙に荒い息。

……そして勃起しているペニス。




「……媚薬か…」



あの屑共の会話を思い出した。何かをこの男に飲ませたようだが、…どうやらそれは即効性の媚薬のようだ。




俺に触れられて身体を震わせてながらも、抵抗しようとしているのは…、



…触られて感じているから…。






そうだと分かり、俺は捕食者の笑みを浮かべて、男の頬をベロリと舌で舐める。




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