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場所は変わって琢磨の家。
先程琢磨が言っていた通り、立石ヶ丘学園から琢磨の家は近かった。徒歩十分弱といったところだろう。
家に向かう途中は始終無言だったのだが二人には会話など必要はなかった。
明美はこれからの事を想像して喋る余裕などなかった上に、琢磨は誰かと仲良く喋る柄でもないのだから。ましてや金だけの繋がりしかない二人なのだ。
琢磨は自分の部屋に入るなり、明美をベッドの上に投げる。
「……っ、?!」
急に体を持ち上げられてベッドに投げられた痛みよりも、驚きの方が勝っていた明美は、言葉も出ないまま自分を見下ろしている琢磨の顔を不安気に見上げた。
「……ぁ」
欲に飢えた獣の顔でもなく。
好奇に満ちた顔でもなく。
ただ蔑んだ表情で見下ろしてくる琢磨に、明美は自分が酷く汚い物の存在の様に思えてしまった。
「おら、自分で服を脱げよ淫乱」
琢磨の扱いも酷い物だ。
だがそんな扱いを受けても明美の琢磨への好意の想いは決して揺るがない。嫌われてしまったことはショックなのだが、一度でも好きな人に抱いて貰えるだけでも嬉しいことだ、そんなことを考えながら緊張で震える手でシャツのボタンに手を掛けた。
「上はいい。下だけ脱げ」
「…う、うん」
対して琢磨は表情には出さないものの、ぞんざいな扱いを受けてでも従順に従う明美に気を良くしていた。
見目麗しく生徒達に崇拝されていた男が、今は自分の傲慢な命令に恐怖で身体を震わせながらも素直に従っていることに愉悦する。
「……、」
震えながら細い指を動かしてベルトを外していく明美。だが緊張の所為で震える指ではスムーズに外せない。
それに苛立ったのは琢磨だけではなく明美も同じ。
これ以上琢磨の前で失態を見せるわけにはいかないのだ。その一心で命令通り事を進ませようと必死に指を動かすのだが上手くいかない。
「……、っ、」
「…チッ、何してんだよ」
「ご、ごめ…っ、」
「慣れてるんだろ。さっさと外せ」
琢磨の中では明美は既に、「男のくせに男を誘った淫乱」のカテゴリーで定着している。初心な振りはもう十分だと言わんばかりに、明美では外せなかったベルトを糸も簡単に乱暴に外していく。
そのままの勢いで制服のズボンと下着を一緒に下ろせば、明美は耐え切れなくなって両手で自分の顔を隠した。
「あ、…ゃ、見ないで、っ」
それなりの覚悟を決めてここまで来た明美なのだが、やはり好きな人の前で身体を見せるのはとても恥ずかしいこと。過去に戻る能力があれば、明美は迷わずその力を使って二度と琢磨には話しかけなかっただろう。それほどの羞恥が明美を襲っていた。
だがそんな特殊能力などない。
現実から逃げることなど出来ないのだ。
「………」
そして琢磨はというと。
自分の身体とは全く違う明美の身体に目を奪われていた。薄く筋肉が付いた細く白いしなやかな脚。力を込めたら折れてしまいそうなほどの頼りない腰。かといって抱き心地は悪くはなさそうな肉付き。きめ細かい肌を触ってその身体を掴めば、おもわず噛み付きたいくらいの柔らかい弾力が待っているのだろう。
琢磨は明美の身体を見て、初めて男に性的欲求を抱いた。
知らず知らずの内に、ゴクリと喉を鳴らすくらいまでに。
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