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「………」
「………」
信二の部屋に入り、俺たちの間には緊迫した時間が続く。もう三十分は経っただろうか。しかし一向に信二は口を開かない。きっと家に来た警官にあれこれ質問され、事の詳細を聞かされたはずなのに。
「……」
信二は椅子に座ったまま俯き、小刻みに震わせた指を絡ませたまま動かない。そんな弱りきった信二の姿を横目で見続けるのもいいが、そろそろ俺の方から話を切り出すか。このままでは何も進展しない。
「おい、信二」
「な、何…っ?」
「何、じゃねぇだろ。俺に聞きたいことがあるんだろ?」
「……っ、」
「言えよ。何でも答えてやる」
見るからに動揺し、弱りきっている信二。
そんな信二を挑発するように薄く笑みを浮かべ言葉を掛ければ、大粒の涙を目元に溜めた信二がこちらを睨み付けてきた。
…いいな、その目。
ゾクゾクする。
「きょ、今日!家に警察が来たんだよ!」
「ああ」
知ってる。
「それで、…それで、今までの事件は…っ」
「………」
「事件の犯人は、…っ」
「…俺だって言ってたんだろ?」
「……っ、?!」
もう少し早く警察も動くと思っていたけどな。
思ったより行動が遅くて、呆れている。使えないクソ警官達の所為で、予定よりも一週間遅れている。俺の予定では今頃……。
「……で?」
「…え?」
「信二はどう思う?」
「どういう、意味?」
「そのままの意味だ。信二は俺が犯人だと思うか?」
「…っ、何で、そんな、事…、」
「………」
ふん。本音を隠そうとしても無駄だ。
俺が犯人だと思っている癖に。
しかし相変わらず信二は嘘や隠し事が下手だな。嘘を吐いたときは、昔から決まって俺から視線を逸らし、一度だけ人差し指で下唇を触るよな。
…本当、分かりやすくて馬鹿で可愛い奴。
まぁ、別に信二から信用されていようが、されていまいが、今はどちらでもいい。それに俺が犯人なのは間違いないことなのだから。
それよりいつまでも俺を見ずに、下ばかり俯かれているほうが腹が立つ。
「信二」
「……か、ずき」
「…こっちを見ろ」
「………、」
「俺を見ろ」
「…っ、!」
…チッ。
お前の彼氏は床か?腹立つんだよ。いつまでも下向いてねぇで、俺を見やがれ。
先程よりも厳しい口調で咎めれば、信二は恐る恐るといった感じで顔を上げ、怯えた目で俺を見てきた。
「…かず、き」
涙で濡れた信二の目はとてもそそる。
そうだ。お前は俺だけを見てればいいんだよ。
「信二、訊けよ」
「……?」
「何でも答えてやると言っただろ」
お前が望めば、俺の口から真実を話してやる。
警官の口から俺が容疑者だと聞いても、真実味が沸かないだろう。だから信二が訊ねてきたら、何でも答えてやろう。今は凄く気分がいいから、今日だけは特別だ。
「何でも…?」
「ああ」
「……」
そして信二は一度だけ下を見た後、遠慮がちに俺に視線を移し、口を開いた。
「本当に、」
「………」
「本当に、一輝が…やったの?」
今にも崩れ落ちそうなほど、細く震えた信二の声。
俺はその問いに、薄く笑みを浮かべ答えてやった。
「ああ、
俺だ。」
とうとう泣き崩れてしまった信二。
そしてそんな信二を見て笑みを浮かべる俺。
自分が歪んでいることは知っている。
だが嬉しくて堪らない。
だって、これでようやく俺の計画の第一歩が踏み出されたのだから。
END
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