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あんなに弱りきった自分を一輝に曝け出したのはいつぶりだろうか?小さい頃は大したことでもないのに、すぐに泣き、躊躇なく一輝の元へ駆け寄り慰めて貰っていた。
だけど身体が成長していく内に、それを「恥」だと認識するようになってからはそれは徐々になくなっていった。だからてっきり自分は昔よりも強くなったと思っていたのに。でもそんなことはなかった。俺は子供の頃から何も変わっていなかったのだ。
俺は未だに一輝に依存している。
それが良いのか悪いのか判断出来なくなるまでに。
深く、深く…。
「おい聞いたかよ」
「ああ、聞いた聞いた」
「まじこえーよ」
ガヤガヤとざわめく教室内。
皆の表情を窺う限り、いい出来事があったわけではないらしい。
嫌な予感がした。
…まるで「あの時」のように。
「変な事件に巻き込まれたのかな?」
「気味悪い…」
「うん。何でこうも俺たちのクラスばかりが狙われるんだろう…」
「確実に同一犯だよな」
「早く犯人捕まってくれよ。怖くて外に出れねー」
…嗚呼、やっぱり。
嫌な予感は的中だ。
どうやらまた事件が起こったらしい。
しかも被害者は再び全員クラスメイト。
その上、名前が挙がった被害者達は男女含めて全員、昨日俺をイジメてきた人達だ。
「………」
こんな偶然があるのだろうか?
いや、あっていいわけがない。
前回はイジメの主犯格が行方不明、そしてより過激なイジメをしてきた人達が重症を負った。そして今回は昨日俺にパシリと暴力を振るった現場に居た人達全員が行方不明。
「……っ、」
確実におかしい。何で?どうして?
俺の、所為なのかな…?何故こうも接点が深い人達が被害者なのだろう。
…怖い。全てが怖い。
事の事情を知るのも。
そして、この事を一輝に訊ねなくちゃいけないことも…。
****
「信二のクラス大変だな」
「…え?あ、うん…」
どうやって話を持ち出そうとかと悩んでいると意外にも一輝の方から話を持ち出してきた。これを機に、疑問に思っていることを全て一輝に訊ねてもいいだろうか…。
「あ、のさ?」
「何?」
「一つ、訊いてもいい?」
「いいけど。何だよ?」
「いや、あの、気を悪くさせたら、申し訳ないんだけど…」
変に改まる俺を一輝は眉間に皺を寄せて不思議そうに見てきた。
「その前にも話したんだけどさ、…本当に一輝は何も知らないんだよな?」
「……何が?」
「だからっ、」
「…また疑ってんのか?」
「っ、」
急に一輝の目付きが鋭くなって思わず身体が震えてしまった。だって、一輝のこんな冷たい目…初めてみた。
「…で、でも」
一輝がこの件について全然関係ないとは思えない。今回の事もだけど、前に俺をイジメていた主犯格の人が一輝の名前を出していた。話を詳しく聞くことは出来なかったけど、一輝を見たときのあの人の恐れ様は…何かしら一輝がこの事件に関わっているように思えて仕方がない。
「話はこれか?」
「…うん」
「それならもう終わりだ。俺から話す事は何一つない」
「か、一輝っ」
「ほら、帰るぞ」
「……っ、」
強引に腕を引っ張られる。
どうやら強制的にこの話は終わりになってしまうようだ。
でも、
だけど、
本当に何も知らないの?
一輝が関係ないと信じるしか出来ない事が酷くもどかしい。
その日の夜。
俺の家に警察官が訪ねてきた。
現実から逃げることは出来ないのですか……?
END
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