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「そういえばさ、一輝って彼女とか作らないの?」
「…あ?」
「いや、今まで紹介されたこともないし、女の子と一緒に居る所見掛けたこともないし…どうなのかなぁと思って」
信二が見たいと言っていた恋愛物の映画を俺の家で見ながら、何を思ったのか信二は俺にそう訊ねてきた。
…いや、信二の事だから深く何も考えていない上での質問だろう。
「いきなり何だ?」
「一輝は俺と違って女の子に人気だからさ。どうなのかなぁと思って」
「………」
何も考えずに発言した信二の台詞は俺からしてみれば酷なものだ。長年俺はお前の事しか考えていないというのに。一ミリたりともそれは信二に伝わっていない。
もちろん気付かれないように細心の注意を計っていたのだが、…何とも複雑な心境だ。
「あ、あれ?もしかしてこの話題タブーだった?」
「…別に」
「ごめん、いきなり変な事言って…」
「……そういうお前はどうなんだ?」
「へ?」
「お前は?女は居るのか?」
「は、はぁ?!お、俺に居るわけないじゃん!居ないの分かってて言ってるんだろう!性格悪いぞ、一輝ぃ!」
「ふ、今更だろ?」
「……っ、」
信二に好意を持って近付く女はまず居ない。
だがむかつくことにゼロではなかった。
信二の魅力に気が付いた所は褒めてやってもいいくらいだが、…正直邪魔な存在でしかない。
すぐに処理したが、今頃はどうなっているのだろうか。…まぁ、俺にはもう関係ない事か。どうでもいい事だ。
「で、でもさ…、俺の場合はそれだけじゃないんだ」
「……?」
「俺は一輝と一緒に居るのが楽しいから、…彼女とか別に居なくてもいいかなぁ、とか最近は思ってる」
「お前…」
「一輝に彼女が出来たら俺も一輝離れしなくちゃいけないのかな。あはは、そう思うと少し寂しいなぁ。…あ!別に強がってるとか見え張ってるわけじゃないからっ」
柄にもなく信二の台詞に胸が高鳴った。
「お前って…結構俺の事好きなんだな」
「当たり前だろ!好き、好き!超好き!」
例え信二が言うその「好き」が俺の「好き」と全然違うものでも、俺には十分過ぎるほどの言葉だった。
「一輝は?俺の事好き?」
「…ああ、好きだ」
だから普段口に出来ない言葉も今日は声に出せたのだと思う。
その細い身体を抱き締めて、
「好きだ」ではなく、
「愛している」と言えたら、
どれほど楽だろうか。
やはり信二は俺以上に残酷な奴だ。
俺は今日もお前に振り回されている。
だがお前に振り回されるのなら、本望だ。
END
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