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数日前から以前のように一輝と登下校している。
今日も一輝と一緒に登校出来てとても嬉しい。クラス内でのいじめもさっぱりなくなり、そして前のように学校内でも一輝と一緒に居られるようになって俺は幸せだ。
「……え?」
だが学校に着くなり、顔を青褪めた先生から再び臨時の全校集会があると聞かされ、一気に気分が落ちてしまった。
…だって。
凄く嫌な予感がする。
「…う、うそ……」
その予感は的中してしまった。
前回の全校集会の時よりも顔を青褪め、悲しみに声を震わせる校長先生の言葉を聞いて、俺は一人驚きの声を漏らした。だがその声は、他の生徒達の驚きの声と啜り泣く声で掻き消される事となった。
だって、そんな信じられない。
イジメの主犯格だったあの人が、行方不明だなんて…っ。
「一週間前から家に帰って居ないそうです。彼の怪我の状態から何処か遠い所に行くとも思えません。もちろん警察の方に捜索の願いはしていますが、もし彼の情報を知っているという生徒は、ご協力してください。」
…一週間前…?
待って、下校中声を掛けられたのはいつだった…?
思い出せ、思い出せっ。
えっと、あれは、…今日から丁度一週間前じゃなかったか?!
そうだ、一週間前だ。
あの日に何かがあったんだ。
「………」
こんなしょうもない情報しかないけど、先生達に知らせた方がいいんだろうか?彼が何かを必死に伝えようとしていた事は覚えている。だが内容は聞けず仕舞いだった。何であの時無理にでも彼の伝えたかった事を聞かなかったのだろうか…。
もしかして俺に何か大事な事を伝えたかったのかもしれない。
でもあの時…。
彼が話題に出したのは、一輝の事だったはず。
一輝が何か関係してるのか…?
「……っ、」
いやいや、違うよなっ。
だって一輝と彼は何の接点もないだろうし。きっと関係ないはずだ。うん、絶対違う。
「………」
とりあえず俺はあの時の事を誰にも言わない事に決めた。
*****
「…信二、」
「………」
「信二」
「…え?あ、…ご、ごめん、何?」
「ぼけっとして歩くなよ。危なねぇだろ、前見て歩け」
「あ、う、うん」
「………」
今日も午前中だけで学校は終わり、俺は一輝と一緒に下校している。いつもなら楽しいひと時のはずなのに、あの事が頭から離れずちっとも楽しくない。
「…どうかしたのか?」
「いや、その…今日の全校集会のこと」
「ああ、あれか」
同じ学年の人が行方不明だというのに、一輝は然程興味がなさそうだ。
どうしよう。
でもいくら悩んだって何も解決しない。
ここは思い切って一輝に訊ねてみようかな?
「あ、あのさ!」
「…何だ?」
「一週間前だったよね?行方不明になってる俺のクラスメイトに会ったのって。」
「あー、…そうだったか?覚えてねぇ」
「うん、一週間前の事なんだよ。それでさ、あの時の彼…何かを俺に必死に伝えようとしてたんだ…」
「………」
「…一輝と、知り合い?彼と話した事ある?」
お願いだから、知らない人だと言ってくれ。
一度も話した事がない、関係のない人だと言ってくれ。
「…どうなの?」
「ねぇよ」
「ほ、本当?!」
「当たり前だろ。あんな奴知らねぇ」
「そっか、良かったぁ…」
ホッと安堵の溜息を吐く。
良かった、一輝は全く関係なかったんだ。その言葉が聞けただけでも俺は嬉しいよ。
「信二、お前…」
「……え?」
「俺を疑ってたのか?」
「ち、違っ、…い、一応だよ、念の為だから!一輝の事疑ったりしてないよ。ただ確認したかっただけだから!」
「…それを疑ってるっていうんだよ」
「…ご、ごめん」
深い溜息を吐く一輝を見て、一気に不機嫌になったのがその態度を見ればヒシヒシと伝わってくる。
全面的に非があるのは俺なので、凄く申し訳なく思った。必死に一輝の機嫌を直そうと謝る俺を見ながら一輝がどんな事を思っていたのかなんて、俺は知る由もなかった。
俺を疑うその眼に。
酷く興奮する。
本当の事を知った時、どんな表情を見せてくれるのだろうか。
楽しみだ。
ったく。
だけどいつまでも邪魔な奴だな。
もう一回くらい殴ってやれば良かった。
まぁ、無様に死んだ今では殴る事も出来ねぇか。
END
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