▼ 2
月曜日の朝は特に憂鬱だ。
一輝と同じクラスだった頃はこんな事一ミリたりとも感じた事がなかったけれど、最近は本当に辛い。しかも今日はいきなりの全校集会。とても面倒だ。
一輝が近くに居ないだけで、こんなにも学校は楽しくないのか。本当に俺は一輝に依存してしまっている。早く三年生になってクラス替えしたいなー。そしたらまた同じクラスになれるかな。…でもまた別々のクラスになったら、どうしよう。そしたら俺、学校行きたくない。
「…あれ?」
クラスごとに列に並んでいると、自分のクラスだけ妙に人が少ない事に気が付いた。
何だろう。
休みかな?それともまだ来ていないだけなのかな?
どっちにしてもこの少なさは異常だ。
不思議に思いながら立っていると、悲痛な面持ちの校長先生が教壇に立った。
「皆さんおはようございます。今回何故皆さんに集まってもらったのかというと、とても残念な出来事が起きてしまったからです。」
今にも倒れてしまいそうなほど青褪めている校長先生。そしてそんな校長先生の話を聞き、俺も血の気が引いた。
だって。
クラスメイトの、…しかも俺のイジメの主犯格だった男女数人が何者かによって暴行されたという話だったから。
「………」
何故。
誰が一体。
校長先生は容態の事までは話していなかったが、偶然ヒソヒソ話をしていた女子の話が耳に届いた。何と中には未だ意識不明で重体の人が居るらしい。しかも女の子なんかはお腹などを蹴られ、二度と子供を産めないような身体にされてしまったらしい。
酷い。
何でこんな事を。
「………」
だけど何でだろう。
あまりの惨い話に聞くに堪えないというのに、不思議と何処かホッとしてしまっている自分が居るのも確かだ。
だって、もうこれ以上イジメられなくて済むかもしれない。そう思うと何処か安心してしまう。自分のクラスメイトが今も生と死を彷徨っているというのに、…最低だ俺。
今日は午前中で授業が終わった。
俺達のクラスはまるでお通夜状態の様に始終静かだった。それもそのはず。クラスの主要人物が居ないのだから。誰も一言も喋らないまま一人、二人と席を立ち帰宅していく。
俺も、帰ろうかな。
今日はイジメられる事もないだろうし。そう思い席を立てば、声を掛けられた。
「信二」
「…一輝」
「帰ろうぜ」
「あ、…う、うん。」
今日はイジメてくる人達も居ない。
堂々と一輝と一緒に帰っても文句を言ってくる人など居ないだろう。一輝との平穏な日常を取り戻せたようで少し嬉しく思ってしまう俺はやっぱり人として最低なのかもしれない。
「………」
「…あのさ」
「ん?」
「こ、怖いね」
「何がだ?」
「だってまだ犯人捕まってないんでしょ?もしかしたらまだ近くに居るかもしれないし、俺達を狙ってるかもしれない…」
「……ああ、その話か」
「一輝は怖くないの?」
「別に」
そう言うと一輝はふわりと笑みを浮かべた。
……?
何で一輝は今笑ったんだ?
「で、でも、皆重体なんだって。命危ない人も居るって…」
「そうか」
「何でそんな酷い事するんだろう…」
「………」
本当に酷い事だと思う。
だけどやっぱり何処か安心している自分が居る。
この醜い感情は一輝にはバレたくない。
「……、」
「…もしかしたらそいつらが悪いのかもしれねぇよ」
一輝の急な言葉に俺は下げていた頭を上げた。
「…え?どういうこと?」
「死にそうなくらいの重体なんだろ?」
「う、うん」
「そいつらもそれなりの大罪を犯していたのかもしれない」
「…た、例えば?」
「例えば、…踏み入ってはいけない領域に入り込んできたとか」
「……?」
一輝の言葉にいまいち理解が出来ずに首を傾げていたら、一輝は再び笑みを浮かべながら俺の頭を撫でてきた。
「…わっ」
「理由は何にしろ、信二が心配する事ねぇよ」
「そ、そうかな?でもやっぱり危険なんじゃ…」
「その時は俺が守ってやる」
「…一輝が?俺を?」
「ああ」
俺が女だったら今の一言でコロッと恋に落ちていたかもしれない。それほど一輝の今の台詞は俺にとって嬉しいものだった。
「もう心配いらねぇだろ?」
「うん!」
「それなら帰るぞ」
「うん!」
そうか。
一輝が俺を守ってくれるのか。
それなら凄く頼もしい。何一つ心配する必要がない。
「もし一輝が危ない目に遭いそうな時は、代わりに俺が助けるから!」
「……ふ」
「あ、今笑ったな?!」
「笑ってねぇよ」
「嘘だ!馬鹿にしたな!俺だっていざとなれば一輝の一人や二人くらい助けられるからな!」
「ああ、頼りにしてる」
「…だから笑うなー!」
笑ったんじゃない。
君の台詞に微笑んだだけ。一番の危険人物はだーれだ?
END
prev /
next