短編集 | ナノ

 1.5


クールな友達→苛められっ子。受け視点。
時間軸は1の三日前くらい。いじめ、暴力表現注意。






今までの俺は本当に運が良かったのだと思う。
一輝という大切な親友が出来て、しかも高校一年生までずっと同じクラスだったのだから。俺のような地味な奴が一輝と四六時中一緒に居る事に、周りはいい風には思っていなかったようだが、俺は一輝と一緒に居れて凄く楽しかった。そして一輝も俺と一緒に居るのが一番心地よいと言ってくれていた。


…だがそんな運の良さは高校一年の時までだったみたいだ。何故ならば、最悪な事に二年になってのクラス替えで、一輝と俺のクラスが別々になってしまったから。

しかもそれと同時にイジメにまで遭うようになった。

男子も女子も、ずっと俺のことが邪魔で気に喰わなかったのだと思う。特に一輝は女子から人気だった。一輝は興味がないと言っていたけれど、女子からは「あのクールさが素敵!」といつも陰でキャーキャー言われていたのを俺は知っている。
最初は靴を隠したり、教科書や机に悪口を書かれる程度の幼稚ないじめだったのだが、それはすぐにエスカレートした。

物隠しから暴力へ変わるのは早かった。



「い、痛いっ」

「うぜーな、お前。早く消えてくれよ」

「おい、見える所に痣作るなよ」

「分かってるって」


新しいクラスメイトの男子からも、そして女子からも蹴られ、叩かれた。痛くて怖くて我慢出来ずに泣けば、それを見て笑われる。


「…ふ、っ、痛いよぉ…」

「うっざ」

「一言、一輝君にはもう近付きませんって言えば暴力は止めてあげるって前にも言ったじゃん」

「………、」

「ほら。言えよ、根暗」

「…い、ぃや、だ」

「チッ、むかつく!」

「いた…、っ」

「美和子、見える所は止せって」


顔をおもいっきり踏まれ、蹴られた。
痛いし、怖いし、もう最悪。
だけど一輝と一緒に居られない方が俺にとっては一番の最悪な出来事だ。少し我慢すれば、またすぐに一輝と遊べる。

あと少し。あと少しの我慢だ。
最近はいつも邪魔が入るため、お昼も一緒に食べられないし、一緒に帰ることすら出来ない。

だから早く、一輝に会いたいな。






*******




「信二」

「え?何?」

「…何だ、その痣?」

「あ、…いや、えっと、こ、転んじゃって」

「………」

「机に足引っ掛けて、そのまま転んでさ、顔を床にぶつけちゃった」


久しぶりに一輝と一緒に帰る事が出来たというのに嘘を吐いてしまったこの後ろめたさ。だけど一輝にはいじめられているのだという事を知られたくない。
なけなしのプライドもあるのだが、何より心配を掛けたくない。だって一輝は親友なのだから。



「…一輝?」

「………」

「どうか、した?」

「…いや。相変わらずドジだなと思って」

「なっ、ドジじゃないよ!」

「とりあえず。何かあったらすぐに俺に言え」

「……え?」

「また“転んだ”時とかな」

「う、うん」


嘘吐いた後ろめたさからきちんと一輝の目を見れなかったから気付かなかった。








「一輝は俺のお兄ちゃんみたい!」

「………」

幼い頃に放った何気ない俺の台詞。
あの時見せた冷酷な表情を今もしていたなんて、俺は全く気付かなかったんだ。


でも。
多分。

あの時気付いた所で何も変わらなかったと思う。





END



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