短編集 | ナノ

 2







「…お、おい、お前ら!止めろ!」



そう声を荒げると、赤坂に暴行を加えていた三年の動きが止まり、そこに居た全員が俺に視線を向ける。



…こ、…恐っ…。


身体が震えていることがバレないように、俺は必死に足を地につける。





「あ゛?!誰だ、このちびっこ?」




「…知らね…」



ち、ちびっこ?!
ば、馬鹿にするなよ!




「ち、ちびっこじゃない!こんなみっともないことは止めろ!」




「……こいつあれじゃね?…ほら、今年新しく入ってきた先公。」




「…あぁ…。そう言われれば、居たような……。」




俺は赤坂に近づき、安否を確かめる。
屈んで、倒れている赤坂を見ると、うっすらだが目が開いていることに気付いた。



…よかった。
無事みたいだ。意識もあるようだし…。


俺は自分よりも明らかに大きい赤坂を担ごうとしたところで、三年の生徒から声が掛かる。






「何、勝手なことしてんだ?…あ゛ぁ?!」




「…ひ…っ」



怒声におもわず、悲鳴が漏れる。
小さかったため三年には聞こえなかっただろうが、多分赤坂には聞こえてしまっただろう。





「こ、…こんなことは止めろ!卑怯な手を使って、一人の人間に暴力を振るうなんて…っ」




「あ゛?うっせ…。」



「何、こいつ……。」



説教されたことに苛ついたのか、俺の一番近くに居た生徒が、俺の腹に蹴りを入れる。





「……ぐ…っ…!…っ、けほ…っ」



あまりの痛さに、その一発で俺は赤坂の上に倒れ込む。






「弱ぇ……」





くそ…っ。
何でこんな目に合わなくちゃいけないんだよ…っ。
初めて蹴られた…。

痛くて、気持ち悪くて、吐きそうだ…。




…でも赤坂は今、俺のこの痛み以上に痛いはずだ。
チラッと赤坂を覗き見ると、痛みに顔を歪めながら俺のことを睨みつけていた。




…何だよ?
役に立たねぇ、とか思ってるのか?


仕様がねぇだろうが…。
殴り合いの喧嘩どころか、俺は口喧嘩すらしたことないんだよ。





「こいつ等どうする?」



「…適当に気が済むまで殴ればいいんじゃね?」



愉快そうにニヤニヤ笑う、卑怯な三年生。




阿呆か…。
俺はともかく、これ以上は赤坂が危ない。


………痛いのは嫌だ。
恐いのも嫌だ。



でも俺は大人で教師。
赤坂はまだ子供で生徒。




俺が守ってやらなくちゃ…。




「…な、…殴るなら…、」




「あ゛…?」



痛みで上手く出ない声を絞り出しながら、喋る。





「殴るなら、…俺、だけ殴れよ。……いくらでも気が済むまでサンドバッグになるから。……っ、…赤坂は病院に行かせろ…」




声が震える。
これは痛みのせいなのか…、
恐怖のせいなのか…、



俺も分からない。









「……はっ、…いい根性してるじゃねぇか。」




「…ぐ…っ…」



ネクタイを引っ張られてしまい、首が絞まる。
目の前で拳を作られ、俺はギュッと目を瞑る。






「おい、ちょっと待てよ。」




…すると何故か違う三年生が、俺を殴ろうとしていた奴に声を掛けた。

その声に男は、俺のネクタイから手を離す。








…そして三年達は何だか小声で何かを喋っている。
ボソボソと聞こえる声に、俺は訳が分からなくなる。








「…うわ…っ…?!」



急に一番がたいがいい生徒に肩に担がれ、俺は抵抗する。
だが抵抗虚しく何処かに連れ去られてしまう。
見ると赤坂も、引っ張られて移動させられているようだ。









「……う…わ……っ?!」


ボスンとマットの上に乱暴に下ろされ、痛みに顔を歪める。


…ここは何処だ?
マットに古い跳び箱。



……どうやら俺と赤坂は、体育用具室に連れてこられたらしい。





「…何するんだ…?赤坂は解放しろよ…っ」



ギッと目の前の男を睨み付けると、男はニヤリと下品な笑みを浮かべる。




「…それは、お前次第だ。」





「……は……?」




赤坂が抵抗できないことをいいことに、ある男は念の為にロープで赤坂の手首を縛っていた。








「……しゃぶれ。」





「………?」



男の言葉に俺は首を傾げる。
だが他の三年達はその言葉に、ゲラゲラと楽しそうに笑う。





「俺のチンポをしゃぶれって言ってるんだよ。」




「……は?」




聞こえてきた言葉に、俺は耳を疑う。




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