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「…お、おい、お前ら!止めろ!」
そう声を荒げると、赤坂に暴行を加えていた三年の動きが止まり、そこに居た全員が俺に視線を向ける。
…こ、…恐っ…。
身体が震えていることがバレないように、俺は必死に足を地につける。
「あ゛?!誰だ、このちびっこ?」
「…知らね…」
ち、ちびっこ?!
ば、馬鹿にするなよ!
「ち、ちびっこじゃない!こんなみっともないことは止めろ!」
「……こいつあれじゃね?…ほら、今年新しく入ってきた先公。」
「…あぁ…。そう言われれば、居たような……。」
俺は赤坂に近づき、安否を確かめる。
屈んで、倒れている赤坂を見ると、うっすらだが目が開いていることに気付いた。
…よかった。
無事みたいだ。意識もあるようだし…。
俺は自分よりも明らかに大きい赤坂を担ごうとしたところで、三年の生徒から声が掛かる。
「何、勝手なことしてんだ?…あ゛ぁ?!」
「…ひ…っ」
怒声におもわず、悲鳴が漏れる。
小さかったため三年には聞こえなかっただろうが、多分赤坂には聞こえてしまっただろう。
「こ、…こんなことは止めろ!卑怯な手を使って、一人の人間に暴力を振るうなんて…っ」
「あ゛?うっせ…。」
「何、こいつ……。」
説教されたことに苛ついたのか、俺の一番近くに居た生徒が、俺の腹に蹴りを入れる。
「……ぐ…っ…!…っ、けほ…っ」
あまりの痛さに、その一発で俺は赤坂の上に倒れ込む。
「弱ぇ……」
くそ…っ。
何でこんな目に合わなくちゃいけないんだよ…っ。
初めて蹴られた…。
痛くて、気持ち悪くて、吐きそうだ…。
…でも赤坂は今、俺のこの痛み以上に痛いはずだ。
チラッと赤坂を覗き見ると、痛みに顔を歪めながら俺のことを睨みつけていた。
…何だよ?
役に立たねぇ、とか思ってるのか?
仕様がねぇだろうが…。
殴り合いの喧嘩どころか、俺は口喧嘩すらしたことないんだよ。
「こいつ等どうする?」
「…適当に気が済むまで殴ればいいんじゃね?」
愉快そうにニヤニヤ笑う、卑怯な三年生。
阿呆か…。
俺はともかく、これ以上は赤坂が危ない。
………痛いのは嫌だ。
恐いのも嫌だ。
でも俺は大人で教師。
赤坂はまだ子供で生徒。
俺が守ってやらなくちゃ…。
「…な、…殴るなら…、」
「あ゛…?」
痛みで上手く出ない声を絞り出しながら、喋る。
「殴るなら、…俺、だけ殴れよ。……いくらでも気が済むまでサンドバッグになるから。……っ、…赤坂は病院に行かせろ…」
声が震える。
これは痛みのせいなのか…、
恐怖のせいなのか…、
俺も分からない。
「……はっ、…いい根性してるじゃねぇか。」
「…ぐ…っ…」
ネクタイを引っ張られてしまい、首が絞まる。
目の前で拳を作られ、俺はギュッと目を瞑る。
「おい、ちょっと待てよ。」
…すると何故か違う三年生が、俺を殴ろうとしていた奴に声を掛けた。
その声に男は、俺のネクタイから手を離す。
…そして三年達は何だか小声で何かを喋っている。
ボソボソと聞こえる声に、俺は訳が分からなくなる。
「…うわ…っ…?!」
急に一番がたいがいい生徒に肩に担がれ、俺は抵抗する。
だが抵抗虚しく何処かに連れ去られてしまう。
見ると赤坂も、引っ張られて移動させられているようだ。
「……う…わ……っ?!」
ボスンとマットの上に乱暴に下ろされ、痛みに顔を歪める。
…ここは何処だ?
マットに古い跳び箱。
……どうやら俺と赤坂は、体育用具室に連れてこられたらしい。
「…何するんだ…?赤坂は解放しろよ…っ」
ギッと目の前の男を睨み付けると、男はニヤリと下品な笑みを浮かべる。
「…それは、お前次第だ。」
「……は……?」
赤坂が抵抗できないことをいいことに、ある男は念の為にロープで赤坂の手首を縛っていた。
「……しゃぶれ。」
「………?」
男の言葉に俺は首を傾げる。
だが他の三年達はその言葉に、ゲラゲラと楽しそうに笑う。
「俺のチンポをしゃぶれって言ってるんだよ。」
「……は?」
聞こえてきた言葉に、俺は耳を疑う。
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