短編集 | ナノ

 恋にきっかけなんていらない





にきっかけなんていらない








容姿平凡。
中身平凡。


唯一理科の教科だけ得意だった俺、青木夕(あおき ゆう)は、苦労しつつも教員免許を手に入れた。

…だが、人生はそんなに甘くない。
俺の大嫌いで苦手な、…不良がたくさん居る学校の教師になってしまった。


しかも受け持ったクラスは、学校一の不良生徒が居る。
短気で、むかつく奴は生徒だろうが教師だろうが、すぐに手を出すらしい…。





「……はぁー……。」



担任になって早二週間が経った。
…未だに不良生徒たちの目の前に立つと、足も声も震える。
それをからかわれながらも、暴力など重度ないやがらせはなく、無事に過ごしていた。





…昨日までは……。









今日行った小テストの採点をしていたため、すっかり帰りが遅くなる。
採点結果を名簿に書き込んでいけば、ずっと点数が空欄な生徒に目がいく。



その生徒は学校一の不良で、問題児。


…赤坂新。





自分のクラスの生徒となったのだが、一度も姿を現さない。
電話しなくては、と何度も思うのだが、勇気が出ない。
……こんな俺は教師失格だろう。



…生徒に怯えて、注意も出来ないなんて。
世の中、いつになっても弱肉強食。

弱い者はいつだって、強い者に恐れて、陰で怯える。



こんな自分の性格に嫌気が差しながら、俺はいつの間にか最後だったため、職員室の明かりを消し、鍵を閉める。






そして渡り廊下の辺りに差し掛かったときだった。







「…死ねや、赤坂!」


「その顔、グチャグチャにしてやるぜ!」







何処をどう考えても乱闘最中としか思えない、声が聞こえてきた。





……っていうか、赤坂…?
聞き覚えがある…、というか、ここ最近の悩みの原因であった名前が聞こえて、俺は壁に隠れながら、何人もの不良生徒が居る中庭の様子をこっそり伺う。






「…調子に乗ってんじゃねぇぞ、てめぇ!」




「ぶっ殺してやるよ…!」




「……………」




上履きで何年生かは判断できる。
赤が二年生。
青が三年生。


青い上履きを履いた生徒に囲まれている赤い上履きの生徒。

…ということは、囲まれているのは二年生で、その一人の生徒を囲んでいるのは三年の生徒……。





…何てことしているんだ…。
目の前で起こっている出来事に、眩暈がする。






「おい、聞いてんのかぁ?!」



「あ゛?!何とか言えよ、赤坂ッ!」



「恐くて、喋れないんじゃね?」



やはりその囲まれている一人の二年生は、俺の生徒の赤坂新……。
何も言わず立っているのをいいことに、三年生はゲラゲラと下品に笑う。





…助けるべきだよな、普通に考えて…。
俺は教師で、赤坂は生徒。
俺は赤坂の担任で、赤坂は俺の生徒。


助けなくてはいけないと分かっているのに、情けなく脚がブルブルと震えてしまう。
背中に冷や汗が伝う。



助けなくてはいなけないのに、恐くてそれが出来ない。
色々と頭の中で葛藤していると、すでに殴り合いというリンチが始まっていた。





「ぐは…ッ…!」



「てめっ…?!」



拳を振り上げる三年の生徒のパンチを簡単に赤坂は避けると、その生徒に蹴りを入れる。
次々と拳や蹴りを入れてくる生徒を避けて、倒していく赤坂。



…あれ?
俺の心配はいらなかったのか?

…いや、でも次は違う心配が出てくる。
三年の生徒の無事と、赤坂の停学問題。



結局俺はどうにかしてこの乱闘騒ぎを止めなくてはいけないのだ。
憂鬱過ぎて、気持ち悪くなってきた。





俺は意を決して生徒たちに声を掛けようとした瞬間、赤坂の視界には移らない後ろで、木製のバットを持っている奴に目を見開く。



「…あ、…あぶな…っ」



危ない、という暇もなく、赤坂の後頭部は卑怯な三年の生徒によって、木製バットで殴られる。




「……っ…?!」


すると赤坂は前へ倒れこむ。
卑怯な手を使って赤坂を痛めつけているというのに、三年生はゲラゲラと再び下品に笑いながら、何度も倒れている赤坂に蹴りを入れる。




俺はそんな姿をこれ以上黙ってみていられなくて、ゴクリと唾を飲み込んだ後、大声を出す。





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