短編集 | ナノ

 2





「き、聞きたくない…っ」

「あ゛?」

「聞かなくていい…!」

「………」


今のはムカッとした。ふられると思っているから、そんな事を言っているんだろうけど、まるで空を思っている俺のこの気持ちさえ否定されているようで、柄にもなく傷付く。


「おい、聞け」

「…やっ、」

「こら、空」


しかも仕舞いには、俺の声を遮断するように自分の手の平で両耳を塞ぎ出した。ギュッと強く目を瞑って、耳を塞ぎながらプルプル震えている空は本当に小動物のようだ。俺はそんな空を見て、はーと溜息を吐いた。


「馬鹿だなお前、」


俺が今吐いた悪態すら聞こえていないだろう。本当に空は俺を煽る天才だよ。空のこんな姿を見て、苛々を通り越して、ムラムラしてきたんだけど…。


「そういう馬鹿な所もひっくるめて、お前が好きだよ」


俺はそっと空の頬に手を添えて、ふっくらとした空の唇に自分の唇を重ねた。…色々経験しているというのに、これが空との初めてのキスだ。ムードもへったくれもねぇけどな。

軽く数秒間だけ触れ合って、最後にチュッと音を立てて唇を離す。唇を離したといっても、今の空との距離はわずか1センチくらいだろう。閉じていた目を開けて、空を見てみれば、真っ赤に頬を染めて俺を見ていた空と目が合った。


「目、閉じてたんじゃねぇのかよ?」


あーあ、見られちまったな、と喉の奥で笑いながら言えば、空は口をパクパクとまるで金魚のように開閉していた。


「き、…き、き、き…っ、」

「……き?」

「き、……き、す…」

「ああ、キスな。」


空が目を閉じたままだったら、もっと凄い事しようと思ってた。といけしゃあしゃあと言ってやれば、空は耳まで赤くなった。…本当に苛め甲斐のある奴だな。可愛い。


「…何で俺が空にキスしたと思う?」

「……な、んで?」

「ふ、質問を質問で返すなよ、ばーか」


空が戸惑っているのが手に取るように分かる。


「……で?何でしたと思う?」

「…い、嫌がらせ?」

「あ?嫌がらせでこんな事するかよ。次そんな事言ったら、犯すぞ」

「………っ、」


すると空は俺の着ている服をギュッと握り、おずおずといった感じで正解を導き出してくれた。


「陸も、…俺と一緒?」

「………」

「俺の事、好き、…なの?」


ああ、やべぇ。
可愛い過ぎるだろ、この子。襲ってしまいそうになるのを堪えて、不安そうに俺を見上げている空の頭をポンッと撫でる。


「そうだよ、俺も空の事が好きだ。」


頭に置いた手を、そのままクシャクシャっと髪の毛を掻き混ぜるように撫でながら、俺の気持ちを素直に伝えれば、空が息を呑んだのが分かった。


「空の事、愛しているんだ」

「…お、俺も、陸の事、好き…っ」

「何、泣いてるんだよお前」

「だって、だって…っ、」


嬉しい…っ、とポロポロと涙を零す空を見て、俺は笑った。小さく震える空の身体を抱き締めながら、俺は暫くこの幸せの余韻に浸っていた。



END


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