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「き、聞きたくない…っ」
「あ゛?」
「聞かなくていい…!」
「………」
今のはムカッとした。ふられると思っているから、そんな事を言っているんだろうけど、まるで空を思っている俺のこの気持ちさえ否定されているようで、柄にもなく傷付く。
「おい、聞け」
「…やっ、」
「こら、空」
しかも仕舞いには、俺の声を遮断するように自分の手の平で両耳を塞ぎ出した。ギュッと強く目を瞑って、耳を塞ぎながらプルプル震えている空は本当に小動物のようだ。俺はそんな空を見て、はーと溜息を吐いた。
「馬鹿だなお前、」
俺が今吐いた悪態すら聞こえていないだろう。本当に空は俺を煽る天才だよ。空のこんな姿を見て、苛々を通り越して、ムラムラしてきたんだけど…。
「そういう馬鹿な所もひっくるめて、お前が好きだよ」
俺はそっと空の頬に手を添えて、ふっくらとした空の唇に自分の唇を重ねた。…色々経験しているというのに、これが空との初めてのキスだ。ムードもへったくれもねぇけどな。
軽く数秒間だけ触れ合って、最後にチュッと音を立てて唇を離す。唇を離したといっても、今の空との距離はわずか1センチくらいだろう。閉じていた目を開けて、空を見てみれば、真っ赤に頬を染めて俺を見ていた空と目が合った。
「目、閉じてたんじゃねぇのかよ?」
あーあ、見られちまったな、と喉の奥で笑いながら言えば、空は口をパクパクとまるで金魚のように開閉していた。
「き、…き、き、き…っ、」
「……き?」
「き、……き、す…」
「ああ、キスな。」
空が目を閉じたままだったら、もっと凄い事しようと思ってた。といけしゃあしゃあと言ってやれば、空は耳まで赤くなった。…本当に苛め甲斐のある奴だな。可愛い。
「…何で俺が空にキスしたと思う?」
「……な、んで?」
「ふ、質問を質問で返すなよ、ばーか」
空が戸惑っているのが手に取るように分かる。
「……で?何でしたと思う?」
「…い、嫌がらせ?」
「あ?嫌がらせでこんな事するかよ。次そんな事言ったら、犯すぞ」
「………っ、」
すると空は俺の着ている服をギュッと握り、おずおずといった感じで正解を導き出してくれた。
「陸も、…俺と一緒?」
「………」
「俺の事、好き、…なの?」
ああ、やべぇ。
可愛い過ぎるだろ、この子。襲ってしまいそうになるのを堪えて、不安そうに俺を見上げている空の頭をポンッと撫でる。
「そうだよ、俺も空の事が好きだ。」
頭に置いた手を、そのままクシャクシャっと髪の毛を掻き混ぜるように撫でながら、俺の気持ちを素直に伝えれば、空が息を呑んだのが分かった。
「空の事、愛しているんだ」
「…お、俺も、陸の事、好き…っ」
「何、泣いてるんだよお前」
「だって、だって…っ、」
嬉しい…っ、とポロポロと涙を零す空を見て、俺は笑った。小さく震える空の身体を抱き締めながら、俺は暫くこの幸せの余韻に浸っていた。
END
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