▼ 無花果(後編)
無花果(後編)
陸視点過呼吸を起こして苦しそうに息をしていた空は、暫くしたら呼吸も安定するようになり、泣き疲れた所為かその後眠りに就いた。
俺はそんな空をベッドで寝かせ、空の寝顔を見続けている。もうかれこれ二時間以上は経っているかもしれない。だけど全然飽きやしない。何か楽しい夢を見ているのか、寝返りを打つ度にふわりと可愛らしい笑みを浮かべる空。
「可愛いな」
好きだと自覚してから、尚更空の事が可愛く思える。見ているだけでこんなにも幸せな気持ちになるなんて、「恋」というのは偉大なものだと実感した。
指の腹で空の柔らかい頬を撫でる。すると空は一瞬ピクンと身体を動かすと、再び寝返りを打ち笑顔を浮かべる。
「本当に何の夢を見ているんだ」
こんなにも幸せそうな顔しやがって。
その夢には俺は出ているのだろうか。少しだけ淡い期待を抱く。
「…出てねぇだろうな」
俺は一人苦笑を浮かべた。先程の過呼吸を起こす原因を作ったのは、紛れもなく俺だ。空も俺の事を好きだと言ってくれたが、…本当なのだろうか。
少しだけ不安になる。直接言われたわけではないのだから。どうせなら俺の目を見て、もう一度言って欲しい。俺も空の目を見て告白したいから。
「ったく、早く起きろよ、馬鹿」
幸せそうに寝ている空の頬を、プニっと掴み軽く横に引っ張る。驚く程伸びる空の頬を苛めながら、俺はくくくっとの喉の奥で笑う。
「ん…、」
「…空?」
早く起きて欲しいと思っていたものの、無理矢理起こすつもりはなかった。身じろぐ空に俺は少しだけ焦る。あまりにも空の頬が柔らかく伸びるものだから、手触りに夢中になり過ぎていた。
空は手の甲で瞼を擦ると、ゆっくりと目を開く。
「悪い、起こしちまった」
「…り、く?」
「ああ、おはよう。もう大丈夫か?」
「あれ、俺……」
何でベッドに?と空は呟いた後、表情を硬くする。
…どうやら先程の事を思い出したようだ。
「…お、俺…っ、」
すると空は俺から逃げるように、後ずさる。
「逃がさねぇよ」
俺はそんな空の腕を掴む。逃がすつもりは更々ない。空には伝えたいことが山ほどあるから。それに、空かも聞きたいことも山ほどある。
「り、く、離してよっ」
「嫌だ」
「……っ、」
「…空は何で逃げようとする?」
「だ、だって、それは…、」
「……何だよ?」
「俺の事、気持ち悪いと思わないの…?」
「あ?」
「……聞いたんでしょ?俺が陸の事をどう思っているのか…」
ああ、そうか。
俺も空が好きだと言ったことは、空には聞こえてなかったな。だから空は俺に聞かすはずじゃなかった告白が聞こえてしまっていたことに、焦り恐れているのか。
「全部、聞いた」
「……っ」
「空が俺の事を好きだと言ってくれたこと」
「…っ、そ、それなら…っ、」
「空は、俺の気持ち聞いてくれねぇの?」
「……え?」
いい加減、俺にも告白させろよ。
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