▼ 12
空の思いもよらない告白に固まっていた俺。
しかし空の泣き声がより一層強くなったのが分かり、俺は空と女が居る寝室の扉を開けた。
「……あ、」
すると女も部屋から出ようとしていた所だったようで、ドアノブを握ったまま酷く醜い表情をしている女の顔が近くにあった。
俺の姿を見た女の表情からは困惑と焦りが伺える。何かを俺に言いたいようなのだが、上手く言葉に出きないようで、口をパクパクと開閉させている。
「………」
俺はこれ以上女の顔を見たくなくて、早足で女の横を通り過ぎた。
「空、」
すると部屋の隅で蹲っている空の姿が見受けられた。空に声を掛ければ、やっと俺の存在に気が付いてくれたようだ。俺を見た空は涙を流しながら驚いている。
「やっ、…やだ、陸…っ」
「…空、大丈夫か?」
女と同じように、空も困惑と焦りの表情を浮かべていた。だが女とは別に、空は恐怖も抱いているようだ。
「やだ、陸、…駄目、…嫌わないで…っ」
「空…?」
「…やだ…」
ポロポロと大粒の涙を流している空の涙を手で拭ってやると、急に空は暴れ出す。俺の胸元を力ない手で叩き、何度も「嫌だ、駄目、嫌わないで」と口にする。
「息をしろ」
「…ふっ、…ひぐ」
空は過呼吸を起こしているようだ。俺の胸元を叩く力もなくなってきたようで、俺に縋るようにシャツを掴んできた。そんな空の姿は酷く弱々しくて、守ってやりたくなる。ヒューヒューと音を立てて必死に息を吸おうとしている空の背中をさすってやれば、後ろから女のヒステリックな声が聞こえてきた。
「今の会話を聞いていたんでしょ?!」
「……煩い」
「私とあの子の会話聞いてたわよね?!」
「………」
煩いと言っても女は再度同じ質問を俺にぶつけてきた。俺はそんな台詞を無視して、空の背中をさすりながら、「空、大丈夫か?」と泣き続ける空を宥めた。
「…っ、聞いてたんでしょ!」
「………」
「その子、貴方の事が好きなのよ?!」
「…空、ほら息をしろ」
「…ホモなのよ!」
「………」
「気持ち悪いじゃない!離れたほうがいいわよ!」
「……気持ち悪くて、悪かったな」
「え……?」
俺の台詞に女は酷く驚いているようだ。
「何?…も、しかして、貴方も…?」
「ああ、…俺は空が好きだ。」
「……っ、」
女に見せ付けるように空の瞳から零れ落ちる涙の粒を舌で舐め取る。すると女の顔はより一層醜い表情となった。
「さ、最低…!」
「…帰れよ、早く」
「……女の私よりも、その子を取るなんて」
「お前なんか、選択肢すらなかったぜ。俺は、空しか興味がない。」
「……、!」
女は悔しそうに唇を噛むと、勢い良く家から飛び出て行った。全く、最後まで煩くてうざい奴だったな。
…まぁ、もう二度と会うこともねぇだろ。
俺はやっと空と二人きりになれた事が嬉しくて、未だに苦しそうに呼吸を続ける空の身体を優しく抱き締めた。
「…空、今の俺の告白聞いてたか?」
「……ふ、…っ」
「聞こえてるわけねぇか」
今の空の状態では俺の声すら聞こえてねぇだろう。俺は空の瞼にチュッと唇を落として、こう告げた。
「…覚悟しとけよ?」
最高にくさい台詞で、もう一度お前に告白してやるから。
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