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「空、…風呂入って来い」
「う、うん」
パタパタとスリッパの音を立てて、風呂場へ直行する空の後姿を見る。この姿を見るのは久しぶりだ。
…おそらく最初のとき以来だろう。
先程空のフェラでイった俺。いくら俺が空の事を好きでも、口や顔に吐き出すほど性根は腐っていない。だから近くに置いていたティッシュに、いつものように精を吐き出そうとしたのだが、…何故か今日に限って空は俺の精液を飲もうとしていた。
あんなクソ不味いものを空に飲ませるわけにはいかない、そう思って腰を引いたそのときに、空の歯が俺のペニスを掠った。
限界だったため、そんな刺激を我慢できるわけもなく、俺は精を放ったのだ。
最初のときのように、空の顔に…。
焦る俺とは正反対に、空は少し戸惑いながらも自分の頬に付着している俺の精液を指先で掬い取り、赤い舌を出して舐めていた。
…そんな空の姿を見て、再び大きくなろうとしている下半身を無理矢理下着の中に直し、俺の精液を舐め取っている空を止めさせて、俺は空を風呂に行かせたのだった。
「…ったく、何を考えてんだあいつは」
無自覚で人を煽るのは止めて欲しい。俺は風呂場に居て聞こえないだろう空の事を思いながら、一人小さく呟いた。
「ねぇ、陸?」
「……何だよ?」
風呂から上がってきた空の次に俺も風呂に入り、一日の疲れと汚れを落とした。
そして今はもう夜の12時。いつもなら空はとっくに寝ている時間だ。俺は空が寝ているベッドの横に敷いてある布団に横になって言葉の続きを待った。
「あのさ…」
「…何?」
「………やっぱり、何でもない」
「…は?」
そういう言い方されると余計気になるんだが。
「何でもないわけじゃねぇんだろ?言えよ」
「…ううん、本当に何でもない」
「……空」
「ごめん、今のは忘れて」
「………、」
そう言われると無理にでも言葉の続きを聞きたくなる。空に恋愛感情を抱いていることを自覚していなかったときなら、無理にでも問い詰めていただろう。
…だが、今では無理強いを出来なくなっているところまで、俺は空に絆されている。
「おやすみ、陸」
「ああ、…おやすみ」
俺は言葉の続きを気にしながらも、気にしないフリをして、これ以上聞き出すのを止めた。
…その時空がどういう事を思っていたのか、自分の事で精一杯だった俺は、空の思いなんて気付きもしなかった。
でも時は残酷なもので、夜は次第に明けていく。
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