▼ 7
「……っ」
ああ、エロい。可愛い。
これは反則だ。好きな奴の顔に自分の精液をぶっ掛けるというのは、こんなにも興奮するのか?
しかし何て事だ。
俺はこんなにも性に疎い空に、自分の浅ましい物をしゃぶらせた挙句、汚い精液を顔にぶっ掛けてしまったのだ。
もう取り返しつかねぇ。
俺たちは今、親友という枠からはみ出してしまったのだ。
目を閉じている空の頭を、そっと触った。
「…空」
「…目、に…入って、痛いよ…」
「……、」
近くにあったベッドシーツを手に取り、空の顔や髪に付着した青臭い精液を優しく拭ってやる。もうこのシーツは使えねぇな。…まぁ、どうせ女の汚らわしい液体が付いてしまった時点で、このシーツは捨てさせようと思っていたが。
「空、大丈夫か?」
「…う、ん。なんとか…」
閉じられている目から、ポロポロと涙が零れているということは、本当に目に入ってしまったのだろう。
つーか、睫長ぇ…。
肌もきめ細かいし、頬なんて柔らけぇ。
平凡な顔付きをしているくせに、何でこいつはこんなにも可愛いんだ?
…目も閉じられていることだし、このまま勢いでキスくらいしてもいいだろうか?
「………」
本当に人間っていうのは、つくづく貪欲な生き物だと思う。口でしてもらっただけでは全然足りない。好きだと自覚してからというものの、もっと、もっとと身体が空を欲している。
せめて閉じられている瞼の上にでも、軽くキスするくらい許されるだろうと勝手に思いながら俺は空の顔に自分の顔を近づける。
「…………、」
しかし俺は、空の瞼と俺の唇が触れてしまう寸前で、動きを止めた。
駄目だ。
…駄目だ。
「…クソ」
「陸…?」
空の柔らかい髪を乱暴にクシャクシャっと撫でた後、俺は手に持っていたベッドシーツを空の顔に投げ付けてやった。
「…わ、…っ?!」
「風呂、…入って来いよ」
「…え?あ、うん。」
ある程度ベッドシーツで拭ってやったものの、やはり臭いまでは取れねぇ。薄っすらと目を開けて風呂場へ向かう空の後姿を見ながら、俺は思った。
“絶対、謝ってなんかやらねぇ”
と。
…謝ってやるものか。
謝ったら最後。空を想っているこの気持ちをも否定しているようじゃねぇか。
キスも不意打ちなんかじゃなく、面と向かってしてやる。その白い頬が林檎のように赤く染まるまで、濃厚なものをしてやろう。
俺はそんな事を思いながら、クククと喉で低く笑った。
「………」
「…………」
風呂から上がってきた空。
綺麗に整えてやった空のベッドで寝転がる俺。
…どちらも先程の事には触れなかった。
あえてその話題に触れないのか、それとも忘れたいと思っているから口に出さないのか、…空の気持ちは分からない。だが俺はその事に何処となく安心していた。
「ねぇ、陸」
「……何だよ?」
「あ、のさ…」
「…………」
「そ、…の」
「あ゛?はっきり言え」
「その、…あ、明日も、女の人呼ぶ…?」
控えめに訊ねてくる空に俺は心底こう思った。
ずるい、と。
こいつ俺が断れないと分かって言い出してきたんじゃねぇだろうな。一回だけという条件で3Pというくだらないお遊びに付き合ってやった。だが、今の俺は先日の俺とは少し違う。空の事を恋愛感情で好きだと自覚しているのだ。
女とヤりたいわけでもねぇ。
空が女に銜えられている所を見たいわけでもねぇ。
だが、先程のようにまた空の小さい口でしゃぶってもらえるかと思うと、断れないのだ。
「……チッ」
そう。
こんな甘美な誘い、
…断れるわけないのだ。
prev /
next