▼ 12-2
「先輩、どうして俺を此処に?」
雲ひとつ無い青空。
この綺麗な景色を俺に見せるためにわざわざ屋上に連れてきてくれたのだろうか。ロマンチックな返事が返ってくるのだろうと淡い期待を抱いていたら、急に肩を押されて壁に押し付けられた。
「っ、…い、た、」
「…分からねぇか?」
「……え?」
今まで聞いたことのない声。その声は、とても低くて怒りに満ちているのがすぐに分かった。
でも、一体何で…?
身に覚えが全く無く、焦りと恐怖で背筋に汗が伝う。東堂先輩をここまで怒らせてしまったんだ。きっと俺が何かしでかしたに違いない。
「東堂、先輩」
「…むかつく」
「っ、」
“むかつく”。
東堂先輩は間違いなくそう言った。
俺を見てそう言った。あまりのショックにクラクラする。
泣きそうになりながら、ただただ東堂先輩を見つめていたら、急に着ていたシャツを破られた。
「な、っ?!」
「………」
「せ、せんぱい、」
「ももは、もう俺のだろ?」
「え、…っ、ふ、ぐッ、痛」
露になった俺の肩に噛み付く東堂先輩。
必死に耐えてい涙は、あまりの痛みに自分の意思では止めらずに勝手に溢れ出す。何故先輩はこんな事をするのだろうか。
もしかして。
…俺の事を、嫌いになった?
「や、っ」
そんなの嫌だ。
先輩は俺の全てなんだ。俺の秘密を知っても嫌な顔一つせず、俺の弱さも全部ひっくるめて包み込んでくれる唯一の人。
「嫌わない、で…っ」
東堂先輩に嫌われたら俺はこれからどうやって生きていけば分からない。先輩が居てくれるからこうして毎日を楽しく過ごせているというのに。
「…嫌う?俺がももを?」
「ン、痛っ、噛んだら、いた…い」
「そんなこと有り得ねぇ」
「でも、だって…、」
「こんなに嫉妬するほどももを愛しているのに。嫌うわけがない」
「……嫉妬?」
先輩が俺に嫉妬?
な、何で?
「ももに触れたあの男が憎い」
「……あの男?」
「ももの肩に腕を回していたクソ野郎だ」
「…えっと、」
それってさっきの理科室へ移動していた時の事?
「だからこうやって。消毒だ」
「い、痛い、いたいですっ」
「…痛くしてるからな。ももには仕置きだ」
「……仕置き?」
「俺以外の男に簡単に触らせた仕置き」
えっと。
それじゃぁ、先輩は俺を嫌いになったからこうして乱暴しているわけではないと思っていいのかな。
「で、でもあれは友達で」
「あの男はそう思っていないようだが?」
「え?いや、多分友達同士のスキンシップかと…」
「…ももは肩を組んで引っ付くのが友達同士のスキンシップだと?」
「ち、違うんですか…?」
女の子同士だろうと、男の子同士だろうと、友達であれば肩ぐらい普通に組むよな…?
お、俺の認識がおかしいのだろうか?そう訊ねられると不安になってくる。
「……ふーん」
「え、えっ?」
「そうか。」
「理解して貰えましたか…?」
「一応な」
それは良かった。
安心して胸を撫で下ろす。無事誤解も解けたようだ。
先輩からも先程までの機嫌の悪さも感じられない。
「…、っ、うわ…?」
だが。
まだ安心するには早かったらしい。
「せ、んぱい…?」
「“恋人同士のスキンシップ”。俺にはその権利があるよな?」
…肩を組む以上のな。
と、急に耳元で低く甘い声で囁かれて、油断していた俺はおもわず腰を抜かしてしまった。
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