短編集 | ナノ

 10-2





む、胸が大きくなった、だと…?
な、何でだよ。そんなことあるわけ…ないじゃないか。


「えっと、冗談…ですよね?」


東堂先輩のおちゃめな冗談だと信じたい。ただでさえ胸が膨らんでいるのが悩みの種だったのに、更に大きくなっているなんて信じたくもない。…だが現実というのは酷なもので。東堂先輩は俺の胸をいやらしく触りながら「俺が間違えるわけがないだろ。若干ながら大きくなっている」と自信満々に言うものだから俺は落ち込んだ。


「何で、…男の俺が…」


あ、やばい。
本気で泣きそう。


「ああ、俺の所為かもな」

「…東堂、先輩の所為?」

「揉むと大きくなるって言うだろ?」

「…揉むと」


確かに聞いたことあるかも。女子たちが「彼氏に揉んでもらったら胸が大きくなったー」と男子が居る教室で和気藹々と話していたことがあった。
…え?で、でも俺は男だし。揉まれたからといって大きくなるわけないじゃないか。


「…俺、男ですよ?」

「ん?」

「揉まれて、…大きくなるわけないじゃないですか」


根本的な身体の作りが違うわけだし。…でもそんなこと言い始めたら、何で男の俺に膨らみがあるのかも分からないけれど。


「…あれだろ」

「あれ、って?」

「俺が愛情込めて触ってるからじゃねぇか?」

「…なっ、…ン、ちょ…、」


背後で東堂先輩がニヤリと笑ったのが分かった。そして先輩はというと、相も変わらず俺の胸を触り、そして揉む。たまに先端にある乳首まで触り摘まんでくるからタチが悪い。


「せ、んぱい、」

「このまま大きくなり続けたらどうする?」

「…ん、っ、…そ、んなの嫌で、す」

「そしたら女物の下着まで着ないといけねぇな」

「…やだ…っ」

「ふ、…冗談だ」


先輩、酷い。俺がこんなにも悩んでいるというのに、東堂先輩は凄く楽しそう。というか嬉しそう?…何で?


「可愛い、もも」

「や…っ」

「悪い、苛め過ぎたな」

「……ん」


そして先輩はそう言うと、俺の胸から手を離して、服を着せてくれた。


「…本当に、大きくなってるんですよね?」

「ああ、間違いねぇ」

「……どうしよう」


制服を着ると胸が膨らんでいることが見た目では分からないけれど、このままではいけないような気がする。来年の水泳の授業どうしよう…。


「もも、心配すんな」

「東堂先輩…」

「俺が、責任取るから」

「……っ、」


不本意にも意地悪でエッチな東堂先輩の台詞に少しだけときめいてしまった。


というか揉むから大きくなるという理由が本当ならば、先輩が触らないでくれたらいいだけなのでは…とか思ってしまったけど、触られないのも少しだけ悲しいかもと思って「これからは揉まないでください」と言えない俺も結局は同罪なのかもしれない…。




END


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