▼ 9-2
「んンっ、んく、…ふァ」
出来ることなら、耳を塞いでしまいたい。聞こえてくる粘着質な水音。そして自分のものとは思えない、何処か甘さを含んでいる高く掠れた声。
「ひ、ァ、ぁあっ」
嫌だ、嫌だ。こんなみっともない声なんか出したくない。だけど、東堂先輩の愛撫に堪らず声が出てしまう。激しく、何処か乱暴。だけどそんな荒々しく性急な愛撫でも、東堂先輩から与えられているというだけで、俺は酷く興奮してしまっているのだ。
「せ、んぱっ、ン、ふあァぁっ」
飲み込めなくなった唾液が口端から零れる。そんな俺を見て東堂先輩は、「エロいな、もも…」と俺のペニスを銜えながら喋るのだ。
「やっ?!…銜え、たまま、喋ったらっ、…ンくぅ…っ」
駄目、もうイっちゃいそう。ビュクビュクって精液出したい。早く開放されたいっ。だけど東堂先輩の口の中に射精するなんて…、駄目だ。
「とう、どうせんぱい、…は、離して、っ」
「嫌だ」
「ひっァ、な、んで…っ?」
「飲ませろよ」
「ふ、ン、ぁああ…っ」
全くもって話が通じない。こうなってしまえば、東堂先輩を納得させるのは至難の業だ。短い付き合いだけれども、濃厚な日々を過ごしていたためそれは嫌でも分かっている。
「は、…ぅ」
もう、どうしようもない。俺は開き直るかのように、快楽に素直に従う。東堂先輩が放った精液と自分の唾液でニチャニチャになっている胸を揉む。そして東堂先輩と付き合うようになってから知った、快楽を味わえる胸の突起物を自分の指で弄くりながら、東堂先輩からのペニスの刺激に目を閉じた。
「ん、ンっ、ん…っ」
「…もも…、」
気持ちいい…っ。
声が止まらない、涙が止まらない、手が止まらない、そして腰が止まらない。先輩の口内を突き上げるかのように、ゆらゆらと腰が勝手に揺れる。俺はもう与えられる快楽に従い、絶頂に達した。
「ひ、ああァ、っ、ンぁああ!」
ビチャ…っとペニスの先から精が放たれた。待ち焦がれていた射精感に、俺は全身を震わせる。
「ン、…ァ」
そしてゴクリと下から聞こえてきた。どうやら本当に俺が放った精液を飲み干したようだ。一滴も逃さぬよう、中に溜まっていた液をチュッと音を立てて吸い上げると、先輩は満足そうに笑ってこう言った。
「ご馳走さん」
「……っ、」
妖艶な笑み。
でも何処か意地の悪そうな何かを企んでいるような笑みにも見える。俺は、先輩のこの笑みに弱い。背筋が震えた。
「この状態で、授業には戻れねぇよな?」
「…え、その、…え…?」
「俺の家、行こうか」
「……っ?!」
射精感にビクビクと身体を痙攣させている俺の服装を、甲斐甲斐しくも東堂先輩は直してくれた。そして東堂先輩は俺に手を差し出してきた。
…俺はこの手に掴まるべきなのか、迷う。
掴まったら、捕まるような気がする。
心も、身体も全部。
「…せ、んぱい、」
全部、先輩に…。
「お、…俺、今日は、早退します…っ」
「おい、もも…っ」
「さ、さようなら…、」
まだ。
まだ、駄目なんだ。
まだ、心の準備が出来ていない。
真っ赤になってしまった頬を見られまいと、俺はガクガクと震える脚を何とか立たせた後、逃げるようにその場から立ち去った。
「…逃げられると、余計に燃えるな」
喉元で笑いながら、東堂先輩がそんな事を言っていたなんて、逃げた俺には聞こえもしなかった。
END
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