▼ 8-5
「そんなこと、…無理です」
もう一度無理だということを正直に伝えると、意外にも東堂先輩は「そうか…」と少し残念そうな表情をするだけで、深く追求はしてこなかった。
はっ?!
こ、これってもしや俺「東堂先輩に捨てられてしまう」のだろうか。いくら東堂先輩がこんなにも優しいからといっても、東堂先輩だってクラスの男子と同じ、ヤりたい盛りの男子高校生だ。
「………、」
「もも?」
「………」
嫌だ、嫌だ、嫌だ。
捨てられたく、ない。嫌われるくらいなら、東堂先輩が望んでいるパイズリの一度や二度、…いや東堂先輩が満足するまで付き合うよ。
「せ、先輩っ」
「どうした?」
「…そ、その俺に、…パイズリってやつ、してもらいたいですか?」
俺が逆にそういう質問を訊いてくるとは思っていなかったのだろう。東堂先輩は目を見開いて驚いている。
「どう、ですか?」
「…いや、してもらいたくねぇと言ったら嘘になるが…」
「……、」
「俺はももの心の準備が出来るまで、待つぞ」
だからそんな顔してまで無理すんな、とクシャクシャっと俺の頭を撫でてくれる東堂先輩。
「………」
待つ、そう言ってくれたものの、先輩が俺なんかを求めてくれているのには変わりない。それなら俺はそれに精一杯応えないと…っ。
「……心の、」
「……?」
「心の準備が、…出来たって言ったら、どうします?」
「……もも」
「少し恥ずかしいけど、…俺、東堂先輩となら、何だって出来ますよ?」
心臓が物凄くバクバク言っている。口から飛び出しそうだ。だけど今更引き戻れない。…俺は先輩と別れたくないから。
緊張と少しの恐怖に震えてしまいそうになる声を搾り出して、目の前に居る東堂先輩を見つめる。
するとゴクリと東堂先輩の喉が鳴るのが聞こえてきた。
「む、りすんな」
「……無理してないです」
「…隠そうとしても無駄だ。声が震えてる」
「俺は先輩を気持ち良くしてあげたいんです」
「………っ、」
先輩の腕を掴んで、自分の胸の膨らみに東堂先輩の手の平を宛がう。すると珍しいことに東堂先輩はビクッと身体を震わせた。
「俺の胸、…女の人と比べて、小さいけど、…先輩を気持ち良くさせてあげたいって、気持ちだけは、誰にも負けないくらい大きいんですよ?」
「……、」
掴んでいる先輩の手が熱を持ってきたと感じた瞬間、俺は先輩に床に押し倒された。
「…う、わ…っ」
「クソ…、」
「…東堂、先輩?」
俺の上に跨っている東堂先輩の表情からは、戸惑いや焦りが感じ取れた。
「…人が折角、理性保とうとしてんのに」
「……せ、んぱ」
「わざわざ煽ってくるなんて、」
「……」
「…俺に乱暴にされても、文句は言えねぇぞ、もも…」
俺はそこで初めて、東堂先輩の余裕のなさそうな表情を見たと思う。
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