短編集 | ナノ

 8-4





「い、今のは違うんです!」


もう何て言い訳すればいいのかも分からなかった。だって確実に俺はあの単語を口にしてしまったのだから。東堂先輩相手に、今更誤魔化しなんて効かないと思いながらも、俺は訳も分からず何度も「違うんです」と口にした。



「…………」

「…そ、の」


俺が必死に弁解しようと試みている間、一方東堂先輩はというと…、眉間に皺を寄せて難しい顔をしている。先程と何も変わっちゃいない。


「東堂、先輩」

「…もも」

「……っ、はい…!」


そしてやっと口を開いてくれたかと思えば、久しぶりに聞いた地を這うような低い声で喋る東堂先輩。
…もしかしなくて怒っているのですかね?



「せ、んぱ…」

「…誰からそそのかされた?」

「……ぅ」



東堂先輩に誤魔化しや言い訳なんて効かないと、確実に理解させられた瞬間だった。俺は未だに眉間に皺を寄せている東堂先輩に、事の始まりを怯えながらも説明した。クラスメイトとそういう話になったこと。自分の性の疎さにからかわれたこと。そしてそのときにパイズリという単語を教えてもらったこと。そしてからかわれてここに逃げてきたこと。


「…以上です」

「…………」


東堂先輩の鋭い目付きに耐え切れず、自分から洗いざらい話したものの、あの事だけは口にはしなかった。「身体の関係がないと長続きしない」という話題が出たことを。
…恐いんだ。今ここで東堂先輩にも「俺もそうだ」と言われるのが。東堂先輩と身体の関係を持ちたくないわけではない。ただ少しだけ恐いんだ。東堂先輩は男だし、俺も男。女の人に慣れてそうな東堂先輩の目では俺がどんな風に写るのか。



「…そうか」

「…は、い」


やっぱり怒ってるんだろうか。
未だに先輩は難しい顔をしている。



「もも、」

「は、はい、何ですか…?」

「そのクラスメイトには、俺がももに教え込むつもりだったのにふざけんなと言うべきなのか、ももに教えてくれてありがとうと言うべきなのか、…どちらがいいと思うか?」

「……え?…、は?」

「…迷うな」


あれ?怒ってないのかな?
というか今の東堂先輩の発言はかなりの問題発言だったんじゃないのか?…いや、後が恐いからあえて指摘しないけれども。


「…やり方も聞いたのか?」

「……え?!あ、…はい。一応…」

「………」


あれだよね。女の人の胸で挟んでもらうんだよね。
…これで合ってるんだよな?



「…それで」

「はい…?」

「やり方を知ったももはしてみたいと思うか?」

「…え?…いや、そんな女の人から胸で挟んでもらうなんて事、…そ、そんなの滅相もなくて無理ですっ」

「……あ゛?」

「……え?」


あれ、何か気のせいかな?俺と東堂先輩の話噛み合ってないような気がする。


「…俺、何か場違いな事言いましたか?」

「そうだな、かなり」

「………」


あ、あれ?パイズリっていうのは女の人の胸で挟んでもらうことじゃないのかな。あ、もしかしてあれか!俺をからかったクラスメイトが嘘を教えたのか!
…うっ、だったら俺、凄く恥ずかしい事を東堂先輩の前で口走っちゃったのではないか…。



「あの、東堂先輩」

「……もも、あのな」

「…あ、はい?」

「俺が聞いてるのはそういう意味じゃねぇんだよ」

「……と、言いますと?」

「されるんじゃなくて、する方でどうだって聞いてるんだ」

「…………へ?」


する方?
え?どういう意味?
…俺がするの?


「え、…え?」

「だからな、」

「……?」

「俺のチンポをももの胸で挟むことへの嫌悪はあるのかって聞いてるんだ」

「………っ?!」


物分りの悪い俺に東堂先輩は凄く分かりやすく説明してくれた。オブラートに包まず、ストレートな方法で。どちらかというともっと曖昧な表現で教えてくれた方が嬉しかったのだが、その東堂先輩なりの説明方法で、俺は先輩が何が言いたかったのか瞬時に理解出来た。


「ももが女にパイズリされるなんて、俺が許可すると思うか?」


そんなの一生許さねぇよ、と不機嫌そうに喋る東堂先輩の言葉も頭に入って来ないくらい俺は混乱していた。



「俺の胸で、…挟む?」

「そうだ」

「……む」

「…む?」

「む、…む、む、無理です…っ!」


グワっと身体中の体温が熱くなったのを感じた。
俺の胸で挟むなんていう発想なんて出来なかった。男の俺が東堂先輩のものを胸で挟む?!…そ、そんなの無理に決まっている。
というか男の俺だけと胸はあるが、女の人に比べればそれは微々たる物だ。せ、先輩の物なんて挟めるわけがない。…恥ずかしいし、絶対に無理だっ。





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