▼ 8-2
うう、男って最低だっ。
いや、俺も男だけれども…。
あんな下世話な話、聞くんじゃなかった。でもあいつらの言う通り、本当に世間の男女というのは身体の繋がりがなければ長続きしないだろうか。
そうだったとしたら、東堂先輩もそういう考えの人なのかな。
「うわあ、不安だー!」
「……何がだ?」
「…ひ…っ?!」
おもわず身体が飛び上がった。
だって先程まで此処には誰も居なかったはずなのに。それなのにおもわず出てしまった独り言に返事が返ってきたのだから。
…しかもそれに加えて、その声の主が、
「どうした、そんなに驚いて」
「と、東堂先輩…?」
悩んでいた相手の東堂先輩なのだ。
びっくりくらいするはず。
「…な、何で此処に…?」
「それは俺の台詞だ。」
「お、俺は…」
「ももが授業をサボるとはめずらしいな」
うん、俺だってそう思う。
というか実はというと授業をサボるのはこれが初めてだ。一人で色々考えたくて、誰も来ないであろう此処に来た。
…そう。此処は更衣室。
水泳の補習授業でよく使っている場所。まさか東堂先輩も此処に来るとは、予想外だ。
「ぐ、偶然ですね」
「…そうでもねぇよ」
「…へ?」
「俺はよく此処に来ている。」
「え、そうなんですか?」
「ああ」
そうなんだ。東堂先輩はよく此処で授業をサボっているのか。じゃぁ、此処に来れば東堂先輩に会えるってことかな…?
東堂先輩が嫌じゃなければ、こっそりとまた来ようかな…。
「俺はここが好きなんだ」
「え、そうなんですか?」
何でこんな所が好きなんだろう。別に綺麗ではないし、どちらかというと掃除が行き届いてないようにも思える。それにプール独特の塩素の臭いがするし。
…でも、俺も此処は嫌いではない。というかどちらかというと好きかもしれない。だって此処は東堂先輩と縁のある場所だし。
しかしそんな好きな場所に俺が居ても大丈夫だろうか?目障りではないだろうか?…俺、何処か別の所に移ったほうがいいかな?
だけど折角だからこれだけは聞いておきたい。
「あ、あの」
「何だ?」
「ちなみに、何で此処が好きなんですか?」
もしかしたら東堂先輩も俺と同じようなこと思ってくれてるのかな、と思うと聞いてみたくなった。
そして訊ねると東堂先輩は俺を見て答えてくれた。
「此処に居ると、ももの事よく考えられる」
「……へ?」
「一番ももの色んな事を思い出せれる場所だからな」
「え、…え?!」
お、俺の事?!
そ、それって、え、ええ?!
「……っ、」
「もも、顔真っ赤。」
「……ぅー」
「可愛いな」
誰の所為だと思ってるんですか。予想以上に嬉しい東堂先輩の答えに、俺の体温はグワッと上がった。そして頬を隠すよりも先に、赤くなってしまった頬を指摘されて、俺の体温は馬鹿みたいに更に上昇したのだった。
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