▼ 6-2
●東堂side
「…どうかしましたか?」
「…………」
「先輩?」
「…柊」
ゴクリと喉が鳴る。
好きだと伝えて拒絶されるのは嫌だけれど、このまま仲の良い先輩後輩の関係のままで終わるのは、…もっと嫌だ。
俺は小首を傾げている柊の瞳をじっと見つめて、思いを伝えた。
「……柊、」
「何ですか?」
「…俺、
……お前の事が好きだ。」
風すら吹いていないこの静かな晴天の下、俺は柊に抱いていた気持ちを隠さず伝えた。沈黙が続く。時間にすればほんの数秒かもしれないが、俺にとっては酷く長く感じた。
俺からの告白に柊が動揺しているのが分かる。
瞳が泳いでいるのだ。だが俺はそんな柊から視線を逸らさず、更にじっと見つめ返した。
…すると何故か柊はわざとらしく笑い出した。
「あ、…ははは、お、俺も先輩の事好きですよっ。」
「…………」
「相談も乗ってくれるし、優しいし、…凄く頼もしい先輩です。」
「………おい」
「…お、俺はいい先輩に巡り会えました。」
「…おい!」
「…………っ」
怒鳴れば柊は乾いた笑みを止め、びくりと身体を震わせた。
……一体何の真似だ?人の感情に敏感な柊の事だ。俺が本気で、…「恋愛感情」でお前の事を好きだと言っていることは分かりきっているはず。
それなのに柊は“わざと”俺の感情に気付かない振りをしているのだ。
そんなのは許さねぇ。
俺はこの気持ちを曖昧にしておく気はねぇんだよ。
「…俺の事、嫌いか?」
「……………」
柊は俯いたまま首を横に振る。
「…俺が本気で言っているのは、分かってるだろ?」
「…………」
すると今度は戸惑い気味に首を縦に振る柊。
「何で気付かねぇ振りなんかしたんだ…?」
「…………」
今度は反応無し。
やっぱり「同性同士」というのが嫌なのだろうか。
「…気持ち悪いか?」
「……い、…のは…」
「柊……?」
蚊の鳴くような小さな声。聞き取れなかった。
もう一度聞き返そうとすれば、柊は大粒の涙を流しながら言葉を放つ。
「…気持ち悪いのは俺でしょ?!」
「……お前」
「男のくせに、胸はあるし…っ、女々しいし、弱虫だし…!東堂先輩なんかと一緒に居れるような器もないし……、本当に全部駄目駄目だし…」
「……柊、」
「俺と一緒に居たって、先輩は………っ」
…何て健気で優しい奴なんだろうか。
今なら、何故柊が俺の気持ちに気付かない振りをしたのかが分かる。そんな風に欠点を勝手に挙げられた所で、俺にはお前の利点しか見えない。
俺は泣き崩れそうになる柊の身体を抱き寄せた。
すると何故だか柊は、更に涙を流した。
「俺、なんかを好きになっても、
幸せになれないですよ…」
…は、そんな訳ねぇだろ。
俺は今凄く幸せだぜ…?
END
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