短編集 | ナノ

 6




●東堂side





「先輩は、凄いですね。」

「……何が?」

「泳ぎがとっても上手です!」


柊と水泳の補習授業を受けることになって二週間が経った。二週間も好きな相手の裸(特に胸)を見るだけで触れないなんて、本当に辛いものだが、俺にとっては凄く楽しい一時だ。
触りたいとか、その胸を揉みしだいてやりたいとか、…邪な事を挙げればきりがないのだが、今はただ柊の側に居れるだけで満足。


…と、思っていた一週間前。


どうも最近は抑制が効かなくなっている。




「俺、東堂先輩みたいに上手く泳げないから…」

「…………」

「…息継ぎが得意じゃなくて…」

「……教えてやろうか?」

「え…、いいんですか?!」

「…ああ。」

「あ、ありがとうございます」

「……………」


そう。
最近はどうも上手く抑制出来ない。




「…こ、こうですか…?」

「力み過ぎだ。」

「……ぁう…」

「…もっと力を抜いてみろ。」

「は、い…」


教えるために、柊の身体に触れる。
ただ泳ぎを教えているというだけなのに、こうも意識している自分が居る。でも俺は悪くないはずだ。健全な一般男子ならこれが普通。

それに、これは全部柊が悪いんだ…。

その柔らかな肌が、その白い肌が、その男にはないはずの胸の膨らみが、…俺を魅了してやまない。



「…先輩…、こうでいいですか?」

「…………」

「東堂先輩?」

「…………」


好きだと言えばどうなるだろうか?
この思いを伝えればこの胸の痛みから開放されるのだろうか?
柊は受け入れてくれるだろうか?
…それとも、拒絶されるのだろうか?

この思いを告げて、柊に拒絶されるのが怖い。
まだ自分に「怖い」という人間らしい感情が残っていたことに、思わず苦笑する。


だけど、伝えたい。
「好き」だと言いたい。





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