短編集 | ナノ

 5



●東堂side






「……ったく、」


何て無防備な奴なんだ。
あんなに自分の胸にコンプレックスを抱いて悩んでいるというのに、何で更衣室の鍵を掛けないんだ。俺以外誰も入らなかったようだが、もしもの事があるかもしれないというのに。
柊は自分の胸を「気持ち悪い」と思っているようだが、健全な男子高校生にあれはいい意味で刺激が強過ぎる。男にはあるはずのない、胸の膨らみ。白くて柔らかそうな小振りの胸。きっと揉んだら相当触り心地がいいのだろう。そんな胸の先端には穢れをしらなさそうな桃色の乳頭…。


「……クソ、」


思い出すだけでも、エロい。
自分であの胸を揉んでいる所は、最高にやばかった。あそこで理性を保てれた数分前の自分が凄いとも思いえる程だ。

しかし逆に考えるとあそこで理性が切れていたら、柊に抱いているこの思いもすんなりと伝えられていたかもしれねぇな。
…そう思うと、やはり少し損をした気分だ。
まぁ、焦らなくていいか。まだ補習授業は始まったばかり。これからいくらでも柊に「好きだ」と伝える機会はあるだろう。


「と、東堂先輩…!」

「……どうした?」


あのまま上半身裸になっている柊と一緒に居られる自信がなかったから、更衣室から出てプールサイドに腰を下ろして先程のことを考えていたら、水着姿に着替えた柊が小走りで俺の方に寄ってきた。


「あの、さっきは教えてくれて本当にありがとうございました。」

「……ああ。」

「もし誰かが俺のこんな胸みたら、気分悪くしちゃいますからね。」

「…………。」

「これからちゃんと鍵閉めます。」


馬鹿。阿呆。鈍感。
…柊に浴びせる罵声はどれがいいのだろうか。いっそ全部を言ってやりたいくらいだ。
「気持ち悪い」?…そんな事思うわけねぇだろ。



「……東堂先輩…?」

「気持ち悪くねぇよ…」

「で、でも…」

「……見た相手が欲情するかもしれない、とか思わねぇのかよ?」

「…え?」

「…………」


少なくとも俺はそうだ。
中には気持ち悪いと罵声を吐く野郎も居るかもしれねぇが、俺みたいな奴だって居るはずだ。



「…えっと、俺ですよ?そんな事ないと思いますけど…」

「…………」

「あの、その…東堂先輩…?」

「……少なからず一人は居る事は覚えとけ。」


理解してなさそうな柊の頭を撫でて無理矢理言い聞かせた。



…ああ、本当に卑怯な程鈍い奴。



END


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