▼ 4-2
「と、東堂先輩…っ?!」
意図が読めない。何で東堂先輩はこんな事をするのだろうか…?もしかしたら変な所を見せてしまったから、気分を悪くしてしまったのだろうか?
俺はこんな怖い東堂先輩を知らない。
俺の最大の秘密を知ってもなお気味悪がらなかったからといって、俺は調子に乗り過ぎていたのかもしれない。鋭い目付きで見られている今、改めて東堂先輩は“皆から恐れられている不良”だと実感した。
「…ぅ、ぁ…?!や…っ」
恐怖で怯えていると、急に東堂先輩が俺の首筋に顔を埋めてきた。そしてそのまま皮膚をペチャ…と一舐めてきたかと思うと、いきなり噛み付いてきたのだ。
そこまで痛みはなかった。だけど噛まれたという事実に更に恐怖心が増す。
あまりの恐怖で目元には涙が滲んできた。
「と、うどう先輩…、ぁ、…や、何で……」
「…………」
「ひ、ぁ?!」
そして東堂先輩はというと、仕舞いには俺の最大のコンプレックスである胸に手を伸ばしてきたのだ。
「だ、だめ…っ」
「…………」
「あ、…ゃ、触っちゃ、だめ…、」
何も喋らない先輩。俺から視線を外さない先輩。
男にあるはずのない俺の小振りな胸は、東堂先輩の大きな手の平にすっぽりと収まった。
ふに…と軽く揉まれ、俺はパニック状態に陥りながらも、必死に抵抗した。
みっともなく頬を伝う涙。その涙の粒を拭う暇すら今の俺にはない。
「……ふぇ…、」
「………、」
「せ、んぱい…」
「……、くな…」
「……ぅ…?」
「…泣くな。」
東堂先輩はそう言うと俺の胸から手を離した。そして泣き続ける俺に「もう恐くねぇだろ…?」と言いながら、昨日のように慣れていない手付きで、ガシガシと俺の頭を撫でてくれた。
酷い事を仕掛けてきたのは東堂先輩なのに。こうも優しくされると絆されてしまう…。
「…お前の涙に、俺は弱いみてぇだ。」
「せ、んぱい…?」
「だから泣かないでくれ。」
酷い目に遭ったのは俺の方なのに、涙を流し続ける俺を見て、東堂先輩は俺以上に辛そうな表情を浮かべて、俺の頭を撫で続けてくれる。
「……悪かったな。」
「いえ、…俺の方こそ、その色々とごめんなさい。」
高校生にもなってみっともなく泣いてしまったこと。
そして変な所を見せてしまったこと。本当に色々と申し訳ないと思いながらもう一度謝ると、東堂先輩はもう一度頭を撫でてくれた。
「……危ねぇから、着替える時には鍵掛けとけよ。」
「…危ない?」
俺は訳が分からず東堂先輩の言葉に首を傾げる。
すると東堂先輩は深いため息を吐いて、説明をしてくれた。
「…その胸他の奴に見られてもいいのかよ?」
「……あ、」
「もうこんな目に遭いたくねぇだろ?」
そうか、分かったぞ。何で東堂先輩があんな事をしたかというと、この気持ちの悪い胸の膨らみを誰にも見られないためか。鍵を掛けることの重大性を言葉ではなく行動で教えてくれたのか。
…やっぱり東堂先輩はいい人だ。
「……先輩、ありがとうございます…っ」
「……あ゛?」
「本当に東堂先輩はいい人ですね。」
「…………」
お礼を言えば、東堂先輩は眉間に皺を寄せて恐い表情をした後、再び深いため息を吐いた。
「……鈍い奴。」
まぁ、そういう所も可愛いけどな…。とふわりと柔らかい笑みを浮かべた東堂先輩の優しい表情と甘い台詞に俺が顔を真っ赤にしたのは言うまでもないだろう。
END
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