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昨日は水泳補習の監督が藤堂先輩に殴られたまま帰って来なかったので、何事もなく終わった。…胸に膨らみがあることは東堂先輩に知られてしまったのだが。でも自分から打ち明けたことに後悔していない。
…むしろ俺はいい人にこの悩みを打ち明けられたと思っている。
「……東堂先輩」
この胸を見ても気持ち悪いと言わなかった。
むしろ、…俺なんかを可愛いなんて…。
「可愛いって、俺は男なのに…っ」
男として言われてもあまり嬉しくない言葉だろうが、俺にとっては十分嬉し過ぎる言葉だった。今思い出しても体温が熱くなる…。
どんどんと熱くなる頬。そして嬉しくてにやけてしまう顔。
「……可愛く、なんてないのにな。」
でも東堂先輩の表情から嘘を吐いたようにも思えなかった。俺は昨日の引き続き、水泳補習のため一人で更衣室でシャツを脱ぎながら呟く。
「……何で、俺に胸があるんだろう…」
男にあるはずのない胸の膨らみ。
最初はそこまで気になるほどではなかったのに、今では小振りな女の人の胸くらいあるかもしれない。
「………」
触ると、ふにっ…と柔らかい感触がする。
くすぐったい。
俺は手の平で両胸を包み込み、男にあるはずのない膨らみに、不思議に思い首を傾げる。
……ガチャ。
「…………」
「…………」
「…………」
するとノックもなしに更衣室の扉が開いた…。
急いで振り返ると、そこには昨日、胸に膨らみがあるという悩みを打ち明けた東堂先輩が立っていたのだ。
「…………」
「…………」
「……あ、いや、…その…っ」
そして俺は未だに自分の胸を鷲掴みにしていた事に気付き、急いで手を離す。
へ、変な場面を東堂先輩に見せてしまった…っ。俺は赤くなっていた頬を更に真っ赤に染めて上手い言い訳を必死に探す。
「今のは、その…違うんです…っ、」
「………何、一人でオナってんだ?」
「お、オナ……?!」
「…そうだろ?」
「………っ、」
すると東堂先輩は更衣室の扉を荒々しく閉めると、…更に鍵まで閉めた。ギラついた目でつかつかと自分の方に近寄ってくる東堂先輩の威圧感に怯え、後退る。
しかしガシャンと音を立てて、ロッカーにがぶつかってしまった。これ以上後ろに退ることが出来ずに、俺は東堂先輩の獣のような鋭い目付きに怯えていたら、そのまま俺を逃がさないようにするためか、俺の顔の横辺りに両手を付く東堂先輩。
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