「高瀬の家?」
「あぁ。」
「…お、…俺、行ってもいいの?」
「仁湖だから誘ってるんだ……」
高瀬はそう言って俺に、「おいで。」と優しく言うと、手を差し伸ばしてきた。
俺は少し戸惑った後、遠慮がちにその差し出された男らしくゴツゴツした手をギュッと握った。
「…行くぞ。」
俺が一度も逆らわず握ったことが嬉しかったのか、微笑みながら俺の手をギュッと握り返してくれた。
「う、…うん。」
うん、と言ったのはいいものの、俺は教室に弁当や鞄を置き忘れていることを思い出し、それを高瀬に告げた。
すると高瀬は何を血迷ったのか、手を繋いだまま校舎に入り廊下を歩く。
「ちょ、…た、…高瀬っ?!」
俺は酷く焦る。
高瀬とこうして手を繋いだまま廊下を歩くのは二回目だ。
俺たちを見る周りの目は、怯えと驚きと哀れみの目だった…。
た、…確かにくりょうのトップとこんな平凡野郎が手を繋いでいたら、いかにも今からボコられに行きますよー…、って感じだよな。
だけどこれはそんなんじゃないんだ。
…手を繋いでいる理由はよく分からないけど、周りからそんな目で見られるのが嫌だ。
高瀬は皆が思っているほど悪い奴じゃない。
むしろそこら辺に居る人よりも、よっぽど優しい心の持ち主だ。
俺もきっと高瀬と隣の席になってなければ、他の人たちと一緒で恐怖の対象として見ていただろう。
…だけど、俺はもう知っている。
短気ですぐ椅子を蹴ってくるけど、俺の話もちゃんと聞いてくれるし、勉強も教えてくれる。
高瀬は優しい人なんだ。
「…た、高瀬!」
俺は握っていた手の力を抜かし、スルリ…と手を解く。
すると高瀬は一瞬、酷く悲しそうな顔をした。
…ち、違うよ。
俺は周りの目が嫌で手を解いたんじゃなくて……、
「高瀬…!」
……こうして抱きつきたくて手を解いたんだ…。
そう。
俺は今高瀬を正面から抱き締めている。
何故かだって?
決まってるだろ?
…俺が嫌々高瀬と手を繋いでたんじゃなくて、自分の意思で繋いでいたことを知って欲しくて抱き付いたんだ。
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