「…教科書、忘れた。
…見せろ。」
実はこの会話は最初に言われたときから、ずっと続いている。
今まで俺は、怖くて抵抗も出来ずに高瀬の言う通りに、教科書をくっ付いている机と机の間に置いていたんだけど、
……この五限目の数学で初めてその言葉を無視した。
「………………」
「………………」
「…おい、聞こえてねぇのか?」
「……………」
こんな至近距離で聞こえないわけがない。
それはきっと高瀬が一番分かっているはず。
…だけど、俺はこの何の所為なのかよく分からない胸の苦しみが、高瀬に関係しているのだと分かり、高瀬の言葉に耳を傾けようとはしなかった。
これ以上俺の心の中を土足であげるわけにはいかない。
…餓鬼くさい考えだよな…。
それは分かっている。俺が一番そのことは分かっているけど、
…分かっているけど、どうしようもない。
馬鹿は馬鹿なりに色々と悩んでいるんだ。
「…………おい、」
「…………………」
「……………クソっ、…」
ずっと黙って無視をする俺にとうとう高瀬はキレたのか、俺の椅子をガンっと蹴ってきた。
…蹴られるの久しぶりだな……、なんて悠長に考えている俺は結構耐性がついたのかもしれない。
「………無視するなよ…。」
「…………ひ…っ」
椅子を蹴られることには慣れていたが、急にグイっと胸倉を掴まれて、俺は殴られるんじゃないかと思い、恐怖に引き攣ってしまった声を漏らす。
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