「………」
「………」
お互い思考が止まったかのように、一時沈黙が続いた。
「あ、…えっと、」
先に言葉を発したのは俺。
とは言っても言葉にならない声だったけれども。
俺は熱に侵された頭で必死で考えた。「これからどうするべきなのか」というよりも、「どうすれば俺の想いが高瀬に伝わるだろうか」という事を。
ぶっちゃけ俺はゴムなんか必要ないと思っている。
…いや、高瀬が嫌じゃなければの話だけど。高瀬はいつも俺の身体を気遣ってくれて、コンドームなしのセックスはしたことがない。でも、だけど…本音で言えばそんな遮りなどなしに、高瀬と繋がってみたい。
その想いを伝えようと口を開いたのだが…。
「あ、あのさ、高瀬…、」
「…悪い、仁湖」
「え…?」
「ムードねぇ話だが、コンビニに行ってくる」
「えっ」
「ここまできて止めることは出来ねぇ」
…仁湖の事気持ち良くしてやりたいし、俺も早く仁湖と繋がりたい。俺が想いを伝える前に、そう熱っぽく囁かれてしまった。
あまりにも高瀬の男の色気が強すぎて、クラっとしてしまったのだが、俺だってここで引くつもりはない。
脱ぎ捨てていた服を拾い、早々に買いに行こうとしている高瀬を見て、俺は慌てて高瀬の腕を掴んで止めた。
「仁湖?」
「だ、だめ…!」
「どうした…?」
「…行っちゃ駄目だから!」
下唇を噛み締めて必死に懇願する俺を見て、高瀬はどう思っているだろうか。
「仁湖、どうした?」
何処か具合が悪いのか?そう心配そうに眉尻を下げて訊ねてくる高瀬の優しさが今は辛い。いつもは鋭いくせに、こういうときだけ鈍い高瀬。本当は俺の気持ち分かってて皆まで言わせようとしてるのでは?…と思ってしまうのだが、きっと高瀬は素なのだろう。
「行かないでよ…っ」
「……仁湖」
「こんな状態で置いて行かないで…」
こんなに俺の身体を疼かせ、火照らせたのは誰でもない高瀬なのに。こんな状態で放っておくなんてあまりにも酷だ。
「そ、それでも行くとか言うなら、俺…一人でしてるからな!高瀬が帰ってきても相手とか絶対しないから…っ。指一本触れさせないから…!それが嫌なら、…こんな状態でどこかに行くとか言うな……っ、わ…ッ?!」
掴んでいた高瀬の腕をより強く握り、捲し立てれば、言葉の途中で急に強い力で抱き締められた。
「た、高瀬、腕、…い、痛いよ」
「っ、…仁湖があまりにも可愛い事言うから」
「だって、行って欲しくなかったから…」
「悪い。だがもう何処にも行かねぇ」
「本当…?」
「ああ」
だが一人でオナってる仁湖を見れねぇのは残念だな。そう言った高瀬の表情は冗談を言っているような顔ではなかった。
「…悪趣味」
「今更だろ?」
…た、確かに。
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