好きだからこそ悩み、考える







鞄を手に持ち、高瀬に追い付ける様に走った。
歩幅の広い高瀬の事だからもっと遠い所に居ると思ったのだが、意外にもまだ階段を下りる前だった。もしかしたら俺のために歩く速度を緩めてくれていたのかもと淡い期待を抱いてしまう。


「た、高瀬!」

「………」

「あ、…ありがとうっ」


俺を見捨てないでくれて。俺と一緒に帰ってくれて。ゆっくり歩いてくれて。今の「ありがとう」には色々な意味のありがとうが詰まっている。
高瀬に俺のこの言葉足らずな気持ちが上手く伝わったのかどうかは分からないけれど、高瀬の表情が一瞬ふわりと和らいだ様に思え、嬉しくなった。


「あのさ、」

「……ん?」

「学校出たら、…手、繋いでも、いい?」

「……、」

「…やっぱり、駄目、かな?」


ほんのちょっと高瀬と喋っていないだけで、触れ合っていないだけで高瀬不足だ。
でももしかしたら高瀬はまだ怒っているのかもしれない。勇気を出して訊ねてみれば珍しい高瀬の驚いた表情。しかしすぐにその表情から一変して頬が赤くなった。


「…駄目な訳があるか」

「たか、せ…」

「触れたい気持ちは俺だって一緒だ」


まだ校内だというのに、高瀬は俺の手をその大きな手の平で包み込んできた。いつもなら恥ずかしくて抵抗するけど、嬉しさに抵抗するわけもなく俺はそれを受け入れる。


「…え、へへ」

「仁湖」

「なに?」

「…悪い」

「…へ?」

「冷たい態度を取ってしまったこと」

「…あ、うん。いや、俺も悪かったからというか、何というか…」


詳しい話は学校出てから話そうか。と話を持ち掛ければ高瀬は快く了承してくれた。そして俺達は学校を後にした。



…もちろん、手を繋いで。






****



場所は変わって高瀬の家。



「えっと、高瀬にはっきりと言ってなかったよな」

「……?」

「その、俺の将来の夢というか…そういうの」

「…ああ」

「高瀬がどういう経緯で気付いたのかよく知らないけど、高瀬が言った通り俺は保育士を目指してる。今まできちんと言わなかった事、ごめんな?」

「いや…、怒ってるわけではない」

「でも、ごめん。…言いたくなかったわけじゃなく、ただ話す切っ掛けがなかったというか、照れ臭かったというか…そういう理由だから。」

「ああ、分かってる」


不安そうに高瀬を見つめれば、優しく髪の毛を梳かし、そして撫でてくれた。言葉の少ない高瀬なりの表現だということが分かっているので、頭を撫でられるのは凄く嬉しい。


「俺こそ悪い…」

「ううん、高瀬は何も悪くないよ」


きちんと最初に話さなかった俺の所為でこうなってしまったのだから。高瀬が謝る事は何一つない。


「仁湖に冷たい態度を取ってしまった…」

「高瀬は優し過ぎるんだよ。たまには高瀬のああいう部分も見せてくれた方が俺は嬉しいよ?」

「そう、なのか?」

「もちろんいつもの高瀬も大好きだけどさ。」

「…ありがとう」


頭を撫でてくれたお返しをするように、俺も隣に座っている高瀬の頭を撫でてみれば、高瀬は嬉しそうに微笑んでくれた。




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