「………」
「………」
あれからというもの。高瀬は始終無言。
俺の方を一度も向いてくれる事もなく、ただ黒板を遠い目で見ているだけ。
きっと俺と高瀬の様子がおかしい事をクラスメイトも教師も気付いているんだろう。教室内はいつも以上に緊迫している。俺達のせいでこうなっていると思うと申し訳なさが半端ない。
でもこれが最後の授業だ。教室内のこの張り詰めた空気はあと少しで終わるけれど、…俺と高瀬の間はどうなるんだろう。
「……」
ちゃんと元通りになるかなぁ。
いつも通りに楽しく会話したいよ。
そう考えて悩んでいたら授業は終わった。
担当教師は逃げ出すように教室から出て行き、ほとんどのクラスメイトも教室から出て行く。
するとそれと同じように隣に居る高瀬も席を立つ。そして鞄を手に取り、そのまま教室から出て行ってしまった。
「…あ、」
俺は言葉らしい言葉を喋る事も出来ずに、教室から出て行く高瀬の後姿をただ見つめた。
…先に、帰られちゃった。
鼻の奥がツーンと痛む。
無性に泣きたくなった。だけど、このまま泣くなんてみっともない事が出来ずに、俺は鼻を啜る。
「………」
まさか先に帰られるとは思っていなかったから。思った以上にショックが大きい。こうやって高瀬から拒絶されるのは初めての事だったから余計にだ。
いつも俺に優しい高瀬。
そんな高瀬をここまで怒らせてしまったのだから、俺が全面的に悪いのかもしれない。
…けど、だけど。
高瀬には高瀬の道を進んで欲しい。
俺に捉われず、高瀬の進みたい道へ。
「……掃除、しようかな」
明日、きちんと話をしよう。
避けられてでも、もう一度高瀬に話を聞いて欲しい。俺はもう一度だけ鼻を啜った後、掃除をするべく席を立った。
「仁湖」
「……?!」
すると急に名前を呼ばれた。
俺の事を名前呼びしてくれる人は、この学校には一人しか居ない。
高瀬だ。
教室の扉に手を掛け、俺の方を見ている。久しぶりの高瀬の声と視線に嬉しくなって、俺は泣きそうになりもう一度鼻を啜った。
「高瀬…」
「…帰るぞ」
高瀬はそれだけを言うと、再び出て行ってしまった。
「う、うん!」
俺は高瀬を見失わないように、すぐに後を追う。掃除せずに帰る事をクラスメイトに謝罪をすれば、「早く行ってこい」と背中を押してくれた。
やばい。
何か本当に。
泣いちゃいそうだ。
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