月日の経過というのは思っていた以上に早いもので。
のんびりする時間が徐々になくなってきた。
何故ならば、三年生になった俺達には進路の悩みというものが出来てきたからだ。二年生の時のように遊んでばかりではいけない。勉強はもちろんの事、将来の事を考え計画して行動しなくてはいけない。
大変だけど、今の内にきちんと考えて行動しないと、将来もっと大変なことになるぞ、と両親も先生も言っていた。
俺は白紙のままの進路希望用紙と睨めっこしながら、隣の席に座っている高瀬に声を掛けた。
「高瀬は?書けたー?」
「…いや」
「だよなー。中々決めれないよな」
実は俺の中での第一志望は一応決まっている。
だけど中々それを書き込む勇気が出ない。適当な気持ちで決めたからとかそういうわけではなく、真剣に考えた結果だからこそ勇気が出ないのだ。
まだ進路の事には担任にしか相談はしていない。
両親にも、そして高瀬にも言っていない。言わないのではなく、言うタイミングがないってだけ。こういうのって、何か分からないけど照れるよな。
「高瀬はさ、いい大学に進むつもりなんだろ?」
「…違う」
「え?違うの?」
「ああ」
そうなんだ。
てっきりいい大学を目指すのかと思ってた。勝手に思い込んでいたっていうのもあるけど、こういう話するのは初めてだったから、ちょっとびっくり。
「こういうのってさ、デリケートな内容じゃん」
「…そうだな」
「俺にそういうの聞かれるの嫌、かな?」
「嫌とか思うわけない。仁湖になら、俺は何でも話す」
「そ、っか…。あ、ありがとう…」
良かった。
あんまり聞きすぎて嫌われたり引かれたりするのは嫌だから。恋人にでも聞かれたくない話とか一つや二つくらいあるはずだし。
「じゃぁ、もう少し高瀬に質問していい?」
「ああ」
「希望とかある?何処の大学に行きたいとか」
「俺は仁湖と同じ場所に行きたい」
「……え?」
「仁湖の希望する場所と同じ所を希望する」
「え、…いや、でも、」
…どうしよう。
正直、嬉しいとは思えない。確かに高瀬と同じ所に行けたら楽しさ倍増かもしれないけど、それは俺のためにもそして高瀬のためにもならないと思うから。
「あ、のさ?」
「どうした?」
「俺の、志望している進路知ってる?」
「保育科だろ?」
「え?知ってたの?!」
俺、一度も高瀬に話したことないのに。
何で知ってるんだろう?
「知ってるならあれだけど、高瀬の将来の夢は保育士じゃないだろ?」
「分からない。仁湖と一緒に居れるなら何でもいい」
「いやいや、駄目だよっ。こういうのはちゃんと考えないと」
「…仁湖は俺と一緒に居たくないのか?」
「ち、違っ…そういうわけじゃなくて、」
高瀬と同じ所に行けて、ずっと一緒に居れるのは嬉しいけど、それとこれは別だと俺は思う。
だけど上手く言葉でそのことを伝えられず、ただどもっていれば、高瀬は勘違いしてしまったのかムスッとした表情をした。
「…仁湖は俺と一緒が嫌なのか」
「え?!ち、違うよ!」
「……」
「た、高瀬…?怒らないでよ」
機嫌が悪くなった高瀬。
こんな高瀬久しぶりに見たかもしれない。俺の所為で気を悪くさせちゃったのかな。
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