「…なんか、色々ごめん。」
俺は高瀬の優しさにいつも甘えて、我侭を言ってばかりだ。高瀬は俺のことを第一に考えてくれているというのに。…別に今更俺達が付き合っていることを周囲にバレたって、どうだっていいことじゃないか。
だって、どうしようもなく好きなんだから。
「謝るな。…俺も、悪かった。」
「…ううん」
くしゃくしゃと髪を優しく掻き混ぜられる。俺はこの高瀬の優しい手が好きだ。
「俺は風呂でも入ってくる。」
「背中でも、…流そうか?」
「……、必死に抑えてるんだから、煽るな馬鹿」
そう言うと高瀬は頬を赤らめたまま、俺の頭を撫でていた手を止め、代わりに額をコツンとしてくる。
「抑える?」
「……まぁ、多少は」
「…早く上がってきて。」
「どうした?」
「高瀬が上がってきたら、膝枕してあげる…、」
まさか俺の口からこんな台詞が出るとは思わなかったのだろう。高瀬は目を大きく開き、驚いている。しかしすぐに戻り、急ぐように風呂場に駆けて行った。…そのとき見えたのは、頬を緩ませていた高瀬の嬉しそうな横顔だった。
「…馬鹿、高瀬」
柔らかい女の子の膝ではなく、そんなに俺の膝枕が楽しみなのかと思いながらも、嬉しそうに微笑んでいた高瀬の表情を見て、俺も何だか嬉しくなった。
そして高瀬がお風呂から上がってきたのは、それから七分後というあまりにも早さだった。
「…た、かせ」
「…膝枕」
「急ぎ過ぎだよ。…ほら、髪の毛拭かないと。」
きっと高瀬のことだから、折角の露天風呂を堪能することなく身体と髪の毛を洗ってすぐに出てきたのだろう。ポタポタと髪の毛から雫を落としながら、「膝枕、早く」と促してくる高瀬がどうしようもなく愛しく感じる。
「俺の膝濡れちゃうだろ?」
「…そうだな、悪い。」
仁湖の身体を冷やすことはしたくない、そう言うと高瀬は持っていたタオルで乱暴に髪の毛を拭く。
「俺が拭いてあげる。」
「……仁湖が?」
「たまには俺もしてみたい。いつも俺が高瀬に髪の毛拭いてもらってばかりだったから。」
「…………」
「…嫌、かな?」
「嫌じゃねぇよ。……ただ」
「…ただ…?」
「今日はサービスデーだと思って」
「高瀬…」
「すげぇ、嬉しい。」
俺だって高瀬の髪の毛拭いてあげたいなぁとか、膝枕してあげたいとか、耳掻きしてあげたいとか、日頃から思ってるよ。ただ言い出す切っ掛けと勇気がなかっただけで…。
「…ん、タオル貸して。」
「ああ。」
わしゃわしゃと高瀬の濡れた髪の毛を拭いていく。ただでさえ今は寒い地方に来ているのだから、こうやって濡れておくのは良くない。
相変わらず柔らかい高瀬の髪の毛を触りながら、俺は慣れない手付きで拭いていった。
「…痛くない?」
「痛くねぇよ。」
「気持ちいい?」
「ああ、…気持ちいい。」
「良かった…」
まさか高瀬にやってあげたかったリストの一つをこんな所でクリアできるとは思っていなかったので、凄く嬉しい。それにこのままだと膝枕だってしてあげれそうだし。
やっぱり修学旅行は最高だ。
254/300