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「た、高瀬の所為で、…高瀬の所為でぇ…っ」
「仁湖、落ち着け。」
「これが落ち着いていられるかー!」
この状況下に置いて、「怒鳴り散らす仁湖もまた一段と可愛い」とかほざいている高瀬はシカトだシカト。
ああ、やばい。さっきのことを思い出したら恥ずかしくて泣きそうになってきた。
「……もう、俺家に帰りたい…っ」
全クラスの人達(サボっている人も多数居ると思うが)、そして教師達が居たのに、堂々と集会中に恋人同士の痴話喧嘩のようなものをしてしまった。高瀬が怖くて生徒はもちろんのこと、先生達も暫く何も言えず固まっていた。
俺はすぐに我に返ったのだが、…もうそのときにはすでに遅かったのだ。弁解する言葉も出て来ず、大勢の戸惑いの視線に耐え切れず、俺はその場を逃げるように立ち去ってきた。
…そして高瀬は笑いながら俺の後を付いてきたのだった。
自室に帰ってきた今、俺は布団を頭から被りながら、このどうしようもない焦りと苛立ちを高瀬にぶつけていた。
「…高瀬の、ばかぁ…」
「ああ、馬鹿だよ俺は。」
「たかせ…」
「だけどずっとこのままなのは辛い。」
「………、」
「…仁湖の気が済むまで謝るから、機嫌を直してくれ。」
「……笑いながら言われても、説得力ない…っ」
「悪い、悪い。」
「………うぅー」
何でこの状況で笑っていられるのだろうか?
高瀬は恥ずかしくないのだろうか。…それに、人の目とか気にならないのかな…?
「…俺、風呂入ってくる」
「……それなら俺も」
「ダメっ」
「…何で?」
過ぎてしまったことを一々気にしていても意味がないと割り切った俺は、このまま風呂にでも入って気分を一掃しようと考えた。着替えを手に取ると、高瀬も俺と同じく風呂の準備をしだす。
しかし一緒に入ることを拒否すると、高瀬は笑うのを止めて不満そうに俺を見てくる。
「笑ったことへの、お仕置き!」
「……仕置き、」
「な、何だよ、その反応…?」
「仁湖の口からその言葉が出てくると、…何かエロいな」
「……な…っ?!」
仕置きか…。どうせなら俺が仁湖に仕置きをする方がいいが、……これはこれでいいかもしれねぇ…。
そうぶつぶつと一人で呟く高瀬の台詞を聞き流しながら、俺は綺麗で広い露天風呂へと向かったのだった。
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